年別頂上対決(後編)

 平成大相撲を振り返る上で、年ごとの頂上対決を選んだ。基準は以下の4つ。場所のクライマックスで、その年最も重要な対戦で、覇権争いを左右した一番を選んだ。

【頂上度】頂上対決の名にふさわしい状況。決定戦や相星決戦なら最高。

【両雄度】その一番に登場する力士がその年の頂上対決に相応しいか。

【象徴度】その年や時代を象徴する一番だったか。

【熱戦度】相撲内容は白熱したものだったか。

 選ばれるのは必ずしも誰もが知る名勝負とは限らない。選考理由と合わせて読んでいただければ、平成の一年一年が蘇るだろう。

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  勝ち 負け  
他候補 その他有名
16 3 朝青龍 千大海 ハイレベルV争い
1敗大海下し、連続全勝
4 2 4 2 朝青龍ー魁皇
朝青龍ー北勝力
北勝力ー朝青龍
朝青龍ー琴ノ若
17 9 朝青龍 琴欧州 絶体絶命から大逆転6連覇
完全制覇へ最大の危機脱出
4 4 4 2 朝青龍ー魁皇(九) 栃東ー朝青龍
琴欧州ー朝青龍(名)
18 1 朝青龍 白鵬 決定戦は横綱 白鵬大関へ
二強の兆し
4 4 3 4 白鵬ー雅山(夏) 栃東ー朝青龍
19 5 白鵬 朝青龍 全勝で優勝決定
ついに一人横綱打破
3 5 5 4 白鵬ー朝青龍(春) 白鵬ー千大海
琴光喜ー白鵬
20 1 白鵬 朝青龍 意地が激突、横綱相星決戦
復帰の朝青下し、初3連覇
5 5 5 5 朝青ー白鵬(春) 琴欧洲ー白鵬
琴光喜ー朝青龍
21 9 朝青龍 白鵬 2度の青白決定戦
86勝白鵬に先輩が「二矢」
5 5 4 4 朝青ー白鵬(初) 白鵬ー日馬富
日馬富ー朝青龍
22 3 白鵬 把瑠都 全勝対決制す
前人未到4連続全勝開始
4 3 3 4 白鵬ー魁皇(九)
稀勢里ー白鵬(九)
魁皇ー千代大
清瀬海ー春日錦
23 7 日馬富 白鵬 直接対決制し逃げ切り
史上初の8連覇を阻止
3 2 3 3 琴奨菊ー白鵬(秋) 琴奨菊ー稀勢里
魁皇ー旭天鵬
24 7 日馬富 白鵬 29年ぶり千秋楽全勝対決
日馬翌場所も全勝で綱
5 4 5 4 日馬−白鵬(秋) 旭天鵬ー栃煌山
豪栄道ー鶴竜
25 5 白鵬 稀勢里 14日目全勝決戦やはり横綱
白鵬依然強し
4 3 3 5 日馬富士−白鵬(九) 稀勢里−白鵬
26 1 白鵬 鶴竜 全勝阻止も、決定戦は白鵬
鶴竜は翌場所雪辱、横綱へ
5 4 4 3 白鵬ー稀勢里(夏)
白鵬ー逸ノ城(秋)
豪栄道ー白鵬
高安ー里山
27 9 鶴竜 照富士 強行・照が執念で決定戦へ
鶴竜逆転は許さず
4 3 2 3 白鵬ー鶴竜(名) 白鵬−稀勢の里(初)
28 5 白鵬 稀勢里 猛攻も下手投げ一閃
全勝対決また白鵬が阻む
4 4 5 4 琴奨菊ー白鵬(初)
日馬富ー稀勢里(名)
豊ノ島-琴奨菊(初)
豪栄道-日馬富(秋)
29 3 稀勢里 照富士 新横綱、劇的逆転優勝
両者その後の末路は悲劇
4 2 4 3 日馬富ー豪栄道 稀勢里ー白鵬
日馬富ー稀勢里 
30 5 鶴竜 栃ノ心 上半期盛上げた両雄の対決
鶴竜連覇、栃ノ心大関へ
3 3 3 3 高安ー貴景勝(九)
栃ノ心ー白鵬(夏)
豊山ー御嶽海

平成16年

 朝青龍が5回の優勝を記録し黄金時代を迎えた。優勝争いが最も縺れたのは、夏。相手は平幕の北勝力だが、5日目に35連勝をストップさせられた相手。後半戦1差で追う展開が続き、千秋楽追いついて決定戦。雪辱を果たして初の3連覇を達成した。

 1差で千秋楽を迎えたのが春、名古屋。春は4人が11戦全勝、そこから潰し合って全勝朝青龍と1敗千代大海の直接対決、これを制し連続全勝V。名古屋は終盤連敗し、千秋楽1差の魁皇に敗れれば4人で決定戦だったが、本割で決めた。

 上記3戦、どれも決め手に欠ける。この年の優勝者同士なら魁皇戦だが、2敗と3敗の1差対決。同じ1差でも成績は申し分ない千代大海もほかの場所ではやや衰えを見せた。北勝力は翌場所3勝に終わっており、一発屋。ここは最もハイレベルだった春の全勝ー1敗対決としておく。14日目に当たっていれば全勝対決だった。

 目立ったのは朝青龍の吊り落とし。初場所8日目、優勝争いのライバルだった琴光喜を土俵中央で切り返し気味に持ち上げた一番は衝撃的。その後も度々狙った。また、琴ノ若に裏返されながらまわしにぶら下がった一番はつき手かばい手論争に。全勝対決となった春の千代大海ー朝赤龍の熱戦も印象深いが、最も盛り上がったのは、九州場所で綱取り魁皇が千秋楽朝青龍を寄り切った一番。昇進が決まったかのような騒ぎだったが、見送られた。

平成17年

 朝青龍が年6場所下唯一の完全制覇を成し遂げた。独走続きだったが、最もよく対抗したのは関脇琴欧洲。名古屋は直接対決で勝って千秋楽まで争い、秋には2差をつけて13日目に対戦。朝青龍が変則的な首捻りで逆転勝ち、決定戦に縺れ込み、朝青龍が圧倒して大逆転で大鵬以来の6連覇を達成した。唯一決定戦にまで縺れたこの秋場所がカード的にも記録的にも頂上対決としてふさわしい。

 ちなみに、記録でいえば、九州場所14日目に朝青龍が魁皇を破った一番。年間完全制覇ととも史上初の7連覇、さらに年間最多勝記録の更新と、3つの新記録を達成した。

 これだけ強いと1つ負ければ大番狂わせ。栃東が取り直しの末に27連勝でストップさせた一番、琴欧洲が上手投げで頭からひっくり返した一番には興奮させられた。

平成18年

 春場所、朝青龍と関脇白鵬による初のモンゴル勢同士の決定戦。11日目には全勝同士で顔が合い、白鵬が勝っていたが、熱戦の末に横綱の下手投げが決まった。翌場所は新大関白鵬が関脇雅山との10日に渡る並走の末、またも決定戦。突き押しの相手を組み止めた白鵬が初優勝を飾った。

 その後は朝青龍が悠々3場所連続優勝。唯一ハイレベルな勝負は、名古屋場所。最短大関2場所突破を狙う白鵬が、無傷で優勝を決めた朝青龍の全勝に待ったをかけて13勝。しかし昇進は見送りとなった。

 頂上対決は、やはり朝青龍と白鵬の決定戦となろう。千秋楽本割は、白鵬が大関残留のかかる魁皇に、朝青龍が綱取り継続がかかる栃東に、それぞれまさかの完敗で決定戦へ。観戦しており、場内大盛り上がりだったが、その点が頂上決戦としては若干ケチがつく。頂上対決までいかないが、同時期に昇進を狙って活躍した白鵬ー雅山戦は決定戦以外でも拮抗していた。

 名古屋場所、千代大海が露鵬を押し出したが、両者土俵下で睨み合い。審判部呼び出しで注意を受けた後、露鵬はカメラマンに暴行し異例の3日間出場停止(悪びれず再出場後勝ち越した)。初場所、栃東が朝青龍を出し投げで下して優勝したが、これを最後に日本勢は10年も賜杯に見放されたので、長らく記憶に残ることとなった。

平成19年

 白鵬が昇進してついに朝青龍の一人横綱時代が終わり、巡業休場中のサッカー事件で秋場所から2場所出場停止。朝青龍2回、白鵬4回の優勝。

 春場所は2年連続「青白」の同点決勝。内容は昨年の熱戦とは月とスッポン、楽日本割を変化で勝って決定戦進出の朝青龍を、白鵬が注文相撲で叩き込む拍子抜けの展開。決定戦はこれ以外になし。九州場所14日目、白鵬と、久しぶりの好機に燃える千代大海が2敗で相星対決。名古屋では11日目に関脇琴光喜が新横綱白鵬との全勝対決を見事な相撲で制したが、翌日朝青龍との1差対決に敗れ、並走の末優勝を逃した。そうなると、期待を裏切った決定戦がカード的にも状況的にも最も相応しいことになる。ただ、同じカードなら夏場所千秋楽。優勝と横綱昇進は手中にしていたが、最後に王者をねじ伏せての全勝、文句なしの昇進とした一番の方が見応えがあり、新たな時代を象徴している。

 春)白鵬ー朝青龍 頂上4両雄5象徴3熱戦1

 夏)白鵬ー朝青龍 頂上2両雄5象徴5熱戦4

 それ以外では、新入幕で優勝を争った豪栄道を白鵬が強引なとったりで沈めた取組など、君臨するがまだ完全でない青年横綱の1年目をよく表していた。夏場所、この年関脇で8連勝するなど刮目させた業師安美錦が、朝青龍を寄り倒すと、横綱は花道の座布団を蹴り上げる狼藉ぶり。新王者の台頭への焦燥が垣間見えた。

平成20年

 初場所、出場停止明けの朝青龍の動向に注目が集まった。解離性障害なる病名もついたりして心身の状態が懸念されたが、何の。1敗同士で白鵬との相星決戦となった。これが力のこもった好勝負となり、右四つがっぷり、引きつけ合い、最後は朝青龍が強引な吊り身で浮いたところを白鵬の上手投げが決まった。

 翌場所もまた相星決戦となり、今度は朝青龍が出鼻を小手投げ一閃、4連覇を阻止。その後朝青龍が不調に陥り青白時代の看板は剥がれかけるが、連続の2横綱相星決戦は2強時代を象徴するに十分だ。結果、内容、サプライズ感からして初場所の一番が白眉。

  ちなみに、夏場所も優勝は琴欧洲に譲っての相星対決となったが、初の消化試合らしく大凡戦、しかも駄目押し気味になって土俵上で睨み合う前代未聞の横綱対決に。

 琴欧洲が両横綱を連破して欧州勢初優勝に前進した2番は、勢いに乗ればこんなに圧勝するのかと感心したが、琴光喜が朝青龍戦28連敗でストップした一番は、なかなか攻め切れずにようやくという勝ちっぷりで、染み付いた苦手意識が見て取れた。ベテラン栃乃洋の4年ぶり12個目の金星も、不調の朝青龍からとはいえ、痛快だった。

平成21年

 白鵬が本格化、年間86勝4敗の圧倒的な新記録をマークしたが、優勝決定戦では朝青龍に2敗、日馬富士にも敗れて優勝は3回に留まった。

 2横綱は年間皆勤し、全て千秋楽結びで対戦。白鵬の6戦6勝だったが、優勝回数の上では辛うじて2強時代を維持。初場所に続いて秋場所も14勝同士の決定戦となり、勝ったのは、またも予想を覆し朝青龍。流れるような攻めから渾身の掬い投げを決めた。勝ち名乗り後のガッツポーズには目をつぶるとして、両横綱が熱戦を演じたこの一番を頂上対決とする。勝者の方がこの年の最強でなかった点を除いては、完璧な頂上対決だ。

 夏の優勝争いも熱く、12戦全勝対決を裾払いの妙技で白鵬が日馬富士を退けたかと思いきや、翌日日馬富士が朝青龍を外掛けで派手に刈り倒して相星とし、逆転優勝に繋げた。優勝争い、上位対決では近年珍しい足技が、二番とも鮮やかに決まった。

 朝青龍が日馬富士に平成初の櫓投げを決めた一番も出色だった。

平成22年

 白鵬が63連勝を記録。これを稀勢の里がストップさせた九州場所2日目が最も注目すべき一番ということになるが、頂上対決という観点で言えば、やはり優勝争いから。

 ならば春場所の把瑠都戦。11日目ながら全勝対決、前の場所は土をつけられた関脇に格の違いを見せつけ、そのまま全勝で逃げ切った。14勝の把瑠都は大関へ。折しも1横綱となったばかり、白把時代と期待された。昇進後は停滞したが、独走の横綱に最も迫ったのはこの一番だった。

 それ以外で優勝争いがあったのは九州場所くらい。13日目は38歳となった魁皇が1敗同士で挑み、決定戦には直接対決のないまま再入幕豊ノ島が登場したが、白鵬は揺るがず。

 初場所、11年ぶりに関脇に陥落するも一縷の望みに賭けて出てきた千代大海だが、魁皇に敗れて3連敗。師匠千代の富士の幕内807勝の更新を阻止できず、のち大関在位場所数タイとなる盟友との一番を最後に引退した。

 朝青龍もこの場所の優勝を最後に引退したが、11日目巨漢把瑠都に宙を舞わせた異形の下手投げは圧巻だった。

 九州場所では、大関把瑠都が阿覧に後ろに付かれながら、自ら反り返って波離間投げを決め、度肝を抜いた。二代目若乃花に対抗する「平成のThe波離間投げ」。同じ技でも柔と剛の好対照。

 「裏相撲史」に残る、悪い意味で有名な一番は、春日錦ー清瀬海戦。翌年発覚した八百長メール問題で、事前のやり取りが明らかになり、NHKなどでも繰り返し放送された。

 平成23年

 候補が少なく選考に困窮。名古屋場所14日目、全勝日馬富士と1敗白鵬が激突。日馬富士が全勝を守って優勝を決定、史上初8連覇の野望を打ち砕いた一番とした。これに続くのが、秋場所13日目に琴奨菊が白鵬を破って2敗に並んだ一番。結果、並走の末に琴奨菊が力尽きたので、頂上対決の価値は薄れた。その他、決定戦も相星決戦も千秋楽決戦もなし。白鵬が直接対決のない、もしくは対戦の終わった相手から逃げ切る展開が続き、九州は13日目に決めてしまった。

 その代わり3関脇による大関取りレースが激しく、潰し合いも見られた。優勢だった琴奨菊がいち早く昇進、1場所遅れで千秋楽を待たずに昇進が決定した稀勢の里を圧倒した一番などは意地が感じられた。

 名古屋場所4日目、魁皇が千代の富士に並ぶ通算1047勝、翌日旭天鵬に勝って新記録を樹立して拍手喝采。しかし限界を悟って10日目に引退。

 秋には、小兵・磋牙司が長身・栃乃若に本格的な一本背負いを決めて話題に。

平成24年

    この年は文句なしで名古屋場所、白鵬と大関日馬富士による千秋楽の全勝決戦だ。平成で唯一、29年ぶりとなる14戦全勝同士の対決を制した大関は、翌場所も全勝と1敗での千秋楽対決を制して連続全勝で綱取りを果たした。日馬富士の名古屋の番付は、6大関中4番手。本来なら12日目に対戦が組まれるはずだが、後続を大きく引き離していたため、対戦順を入れ替えた。審判部の演出が奏功し、横綱同士以外では初の楽日全勝相星決戦となった。

    秋の決戦もめったに見られないハイレベルな対決。春の白鵬と関脇鶴竜の決定戦も、他力逆転劇ながら目まぐるしく攻守が入れ替わる熱戦だった。

    だが衝撃度では、史上初の平幕同士、旭天鵬が栃煌山を叩き込んで37歳で初優勝を果たした決定戦だ。

    春、勝てば優勝の鶴竜に気迫の張り手から電車道に運んだ豪栄道の速攻は鮮烈。初場所初優勝を果たした把瑠都が、九州では小兵松鳳山の攻めに膝を痛めて連続途中休場、呆気なく大関陥落となったのは意外だった。審判団が誤審を認めた日馬富士ー豪栄道戦は、蛇の目を掃いたと勘違いして相撲を止めてしまい、異例の立ち合いからやり直しとなった。

平成25年

 優勝は白鵬4回、日馬富士2回と両横綱が分け合った。初場所日馬富士、春・夏と白鵬が2場所連続全勝。しかし激しい鍔迫り合いを展開した優勝争いは少なかった。

 両横綱が最後まで優勝を争ったのが九州場所。1敗同士で相星決戦となり、日馬富士が5場所ぶりの優勝を果たした。これが最有力候補となるのだが、捨てがたいのが夏場所の白鵬ー稀勢の里戦。14日目の取組ながら、全勝同士での激突。稀勢の里、悲願の初優勝のチャンスで注目が集まり、稀勢の猛攻を凌いで白鵬の投げが決まり、翌日も勝った白鵬は連続全勝優勝、高い壁として改めて存在感を示した。

 全勝対決と1敗での楽日相星決戦、いずれも甲乙つけがたい。カードとしては、年間82勝で4連覇の白鵬が絡み、対戦相手は69勝の日馬富士と、68勝の稀勢の里と年間勝利数は互角ながら、2横綱の一角で2回優勝の日馬富士の方が相応しい。優勝を分け合った2横綱の対決、肉薄した大関の正念場に王者が立ちふさがった一番、どちらも象徴的。相撲内容では、夏の大熱戦に対して九州の対決は呆気なく、日馬富士の速攻に白鵬の足が踏み越して行司が割って入った。

 ほぼ互角であれば本稿の趣旨からして横綱決戦を選びたい。しかし、追加要素として、名古屋場所でまたも白鵬の大型連勝を止め、九州でも全勝で並走する両横綱を撃破した稀勢の里が、この一年においてただの優勝のない大関以上の存在感を示していた点を考慮。強さの戻った白鵬が、頂上決戦で3年連続日馬富士に負けた側に回るという違和感も影響し、逆転選考で夏場所の全勝対決を選ぶことにした。

(夏)白鵬ー稀勢の里 頂上5両雄3象徴4熱戦5

(九)日馬富士ー白鵬 頂上5両雄5象徴4熱戦2

 九州で稀勢の里が白鵬を破った時には、場内はバンザイの連呼。日本勢が賜杯から見放され続ける中、あからさまな応援が目立つようになり、白鵬の態度も徐々に変わり始める。

平成26年

 初場所、春場所と白鵬に大関鶴竜が食い下がる展開となり、初場所は楽日決戦で追いついて決定戦の末白鵬。春は相星での14日目対決を制した鶴竜が初優勝。連続14勝で横綱昇進を果たした。その後は毎場所接戦。琴奨菊、稀勢の里、新入幕逸ノ城が競りかけたが、勝負どころで力を発揮した白鵬が優勝を重ねた。頂上決戦に相応しいのは、やはり初場所か。決定戦になったのは唯一で、相手の鶴竜は春に一矢報い、九州でも千秋楽1差の直接対決を戦ったのでカードとしても最適だ。

 相星での直接対決、白鵬ー稀勢の里(夏)、逸ノ城(秋)は相手が単発ながらも見応えがあった。新入幕逸ノ城は2大関撃破し、さらに横綱鶴竜に注文相撲。入門5場所目は史上最速、新入幕としては大錦以来の金星を得た。

 大関昇進を果たした豪栄道の白鵬戦3連勝も印象に残る。 

 優勝争いとは無縁ながら、語り草になりそうなのが、初場所千秋楽。6年半ぶりに幕内復帰した小兵の里山は、左下手からのひねり技、一本背負いも決めて連日健闘、千秋楽勝ち越せば技能賞受賞となった。ホープの高安を長い相撲の末に死力を尽くして押し倒したが、物言い。髷を掴んでいたとして反則で負け越し。まさに天国から地獄。

 平成27年

 この年の優勝は、白鵬3回、日馬富士、鶴竜、照ノ富士各1回。

 しかし最多優勝の白鵬の優勝は余裕の逃げ切りばかりで、名古屋に鶴竜と千秋楽1差で戦ったくらいしか決戦と呼べるものはない。九州場所は13日目の1差対決で日馬富士が白鵬に並んだ一番は意外な展開だったが、3連敗の白鵬が自滅して尻すぼみに。

 となると、最多優勝の白鵬が絡んでいないとはいえ、優勝者同士の楽日連戦、秋場所の鶴竜ー照ノ富士戦か。白星街道の照ノ富士が、膝の負傷を負うなど3連敗。2差から浮上した鶴竜が手負いの照ノ富士を片付けて終わるかと思いきや、照ノ富士が執念を見せて同点決勝に。決定戦では慎重に構えた鶴竜がスキを与えず、じっくり料理。再逆転は許さず、昇進後初の優勝を果たした。カードとしては最適ではないが、頂上決戦に相応しい盛り上がりは見せた。

 初場所、前頭筆頭での怪我をきっかけに三段目下位まで番付を下げていた土佐豊が3年ぶりに入幕。最下位からの再入幕だったが、初日徳勝龍戦で負傷する不運。再び三段目まで落ちた1年後に引退したのは気の毒だった。

平成28年

 単独首位の力士が、優勝争い圏外の相手に勝って逃げ切る展開ばかりで、クライマックスでの直接対決は見られなかった。

 キーになる首位攻防戦なら、琴奨菊ー白鵬は11日目、白鵬ー稀勢の里は13日目の全勝対決。白鵬ー豪栄道は12日目、日馬富士ー稀勢の里は13日目の1敗相星対決。

  頂上決戦というにはシチュエーションが物足りないが、その他の要素で比較するしかない。そうなれば夏場所、唯一複数回優勝した白鵬と、年間最多勝の稀勢の里の激突。横綱対決に優勝争いが皆無な中、カードとしては至高。内容も白熱、最後は白鵬の相撲勘が上回り、逆転の下手投げが決まった。3年前の夏に続いて仇敵との全勝決戦を制した白鵬、やはり連敗した稀勢の里を尻目に全勝優勝を果たした。日本勢に10年ぶりに賜杯が戻っても、なぜこれだけ地力を備えた稀勢の里にだけは栄冠はやってこないのか。翳りの見える王者の意地が高い壁となって立ちはだかった。

 優勝争いの中での印象的な相撲は多かった。秋場所13日目の豪栄道ー日馬富士の2差対決は、絶体絶命からの首投げが決まり、初優勝に大きく前進。初場所を制した琴奨菊だが、3横綱を破って抜け出しかけた時に、平幕中位ながら2差につけていたライバル豊ノ島に苦杯。何とか逃げ切ったが、宿命を感じさせた。

平成29年

   珍しい千秋楽自力逆転劇が2度も。ただ、秋場所は日馬富士、豪栄道とも優勝争いに絡んだのはこの場所だけで、しかも11勝4敗。よく2人しか並ばなかったなという世紀の低レベル場所の産物。となれば春場所の稀勢の里ー照ノ富士。共に故障を抱えながらの死闘の末、新横綱が奇跡的な逆転優勝を果たした。稀勢の里は初場所も制しているが翌場所から皆勤がなく、照ノ富士は夏も2差ながら14日目の直接対決を戦っているが秋場所後に大関陥落と、2度の優勝争い以外は勝ち越しすらなく、年間通してみれば頂上対決とは片腹痛いが、3回優勝の白鵬は独走の展開ばかりで、ライバルが立つ場所はなかったため、この一番にせざるを得ない。最もインパクトのある一番であることも確かだ。

 初場所14日目、上位の休場による抜擢で横綱初挑戦の機会を与えられた貴ノ岩が白鵬を圏外に追いやり、稀勢の里初優勝が決まった一番。結果も驚きだが、この金星が伏線となり、日馬富士引退、2横綱減給の大事件が起こった。

平成30年

 土俵は混沌、年間最多勝は59勝の栃ノ心。引退危機を脱し連覇の鶴竜の他は毎場所変わり、初優勝も3人。これぞというカードはない。しかし、前半3場所に限れば、最多勝の栃ノ心と最多優勝の鶴竜が激しく競り合った。初場所は前半戦全勝同士で顔を合わせ、鶴竜が勝って逃げたが、その1敗のみの栃ノ心が終盤差し切った。翌場所は独走の鶴竜に栃ノ心が土をつけて大関取りに繋げた。そして夏場所、栃ノ心が逃げる展開で、14日目にこの両者が1敗同士で対決。これを制した鶴竜が千秋楽も勝って連覇した。

 後半3場所はどちらも休場したりで急失速したが、これを超える頂上対決は見当たらず。激しく優勝を争う直接対決は、九州場所14日目は首位小結貴景勝を大関高安が下して相星とした一番くらいだった。夏場所12日目に栃ノ心が1差の白鵬を堂々と寄り切って大関当確とした相撲は、その後の展開次第で一年を象徴する一番になる可能性があったが、栃ノ心の故障でフイになった。

 名古屋場所、初優勝した御嶽海に、千秋楽好調の豊山が大熱戦の末掛け投げを決めた一戦は、もうひとり優勝争いに残った朝乃山とともに大学出身トリオの大活躍として記憶に残る。