四股名論2

 四股名を分析する。その組み立てについては「四股名論1」で分析したが、今回は思い切って「評価」を試みる。それぞれ思い入れがあって名乗っている四股名に評価も順位もないだろうが、あくまで私的に評価ポイントを整理して点数化したもの。いい四股名とは何か。漠然と語られる事の多いテーマに、分析的に迫る。賛否あるだろうが、一見解として見ていただきたい。

(平成30年記す)

四股名ランキング

評価項目 評価基準
伝統

伝統や歴史を感じられる重みのある四股名か。

部屋伝来の四股名や、伝説の古豪から取ったもの、

由緒あるものに因んだものであれば高評価。

個性

その力士ならではの特徴的な四股名か。

四股名には珍しい字、特に頭文字で識別できるもの、

字が力士の個性と良く合っている場合もプラス。

字体

字体の見栄え、バランスの良さ。

画数が少なすぎたり、相撲字になじまないとマイナス

自然

読みや構成は自然であるか。

音訓混合や奇読・当て字は低評価

音色

音の響きのよさ

基本的に訓読み5音が読み上げ易い。

過少過長、同音連続など行司泣かせはマイナス。

由来

しこ名の由来の奥深さ

エピソードが濃厚であれば高評価

 平成30年春場所の幕内力士を対象に、上記6項目を1〜5点(中間点あり)で評価した。合計値よりも各項目の評価に着目してほしい。合計値は、バランスの良さと考えていただきたい。

 

【伝統】

 しこ名に重みを与える伝統の力。全く新しいしこ名は評価が低くなるが、その分制約が少なく個性を出しやすくなる。伝統に基づく字を入れると、その分個性は出しにくくなり、両立は難しい。

 1位としたのは、継承組。伊勢ノ海勢は、断続的に続く老舗ならではの歴史的四股名で、江戸時代に使われていたもの。同点の豊山は、先々代時津風の大関豊山以来3代目となる。3代とも新潟から東農大を経て時津風に進んでいる(以前、同経歴の小結霜鳥にも襲名の噂があった)。井筒伝来の鶴ヶ嶺から取った鶴竜、高砂伝来の朝乃山が、しこ名全体の構成の古風さも加味して次点。由来となったしこ名の伝統の重みがあり、2代以上続く部屋伝統の字を入れたほかの力士より上にした。1代だけに由来するもの、風や富士など固有とは言えないものには大きな加点はしなかった。

 本名で通す力士や、全く独自のしこ名を名乗る境川勢(十両佐田の海などは伝統があるが)はこの項目では低評価。

 改めて見てみると、多くの力士が師匠のしこ名から一部を受け継いでいることがわかった。

 

【個性】

 1字でそれとわかるしこ名が理想。歴代横綱大関で言えば、男、輪、湖、隆、日、雅、把、欧あたり。

 一番尖ったしこ名として、阿炎を1位とした。読み、字、由来、多項目ではしこ名らしさの点で評価できなかったが、どれも個性的ではあり、この項目で高評価。

 稀、逸、妙、咲という新しい字を使った力士たちがこれに続く。勢も、1文字しこ名と江戸期のしこな復活という2点で個性的とみなした。道、菊、煌、碧、御も新鮮味があり、よく風貌を表しているという点で白鵬も高い評価。

 古風なしこ名は、個性という点では売り出しにくいので、この項目では苦戦するが、古いしこ名の復活はこれも個性として一定評価した。また、古風な作りであっても、隠岐の海のように地域色を出したしこ名は特徴的な字が入ることも多い。「隠」の字だけで判別もでき、しこ名らしさと個性が両立している。

 

【字体】

 相撲字で毛筆したときの形、収まりの良さを評価する。
番付上、興行が成功することを祈って字は詰め詰めに、できるだけ白地が残らないよう太く大きく書く。それに適したのが相撲字であり、
しこ名もそれに合うものが相応しい。

 画数が少なすぎるとスカスカになりやすく、収まりが悪い。「正代」などはやや隙間を埋めづらい。画数が多めで上下左右偏りない字が理想的で、「豊」「海」「龍」などは好まれて頻出。画数は少ないが、「山」のように上部を前の字と重ねるように書くことができ、全体としてのバランスを整えられる字もある。


 字数の少ないのもスカスカになりやすいが、多すぎるのもバランスが難しい。「の」が入れば小さく潰せるが、漢字4字だとなかなか書きづらい。


 名付けだとあまり左右対称すぎるのは避けられるが、相撲字との相性は良い。一方、同じ字の作りが並ぶと偏りが出やすい。ヘンが続く栃煌山だと、右側に重心が傾く。竜電も同じカタチが並ぶが、これは逆に面白いと見る向きもあるかもしれない。


 字の間の画数差が激しいのも縦のバランスを欠く。千代大龍だと漢字4字の上に、上3文字と龍の差がある。錦木や白鵬も同様にバランスを取りづらい(白鵬翔と書くと月2つ羽2つが重なる点も気になる)


 最後の1字の収まりも安定感に影響を与える。高安、正代あたりはやや下の字の下部がどっしり収めるのが難しい。


 色々と難癖をつけた中で、最上位としたのは「魁聖」。全体に画数が多くてどっしりしていて、兄弟子魁皇と字体を似せてきたのが決め手となった。

 

【自然】

 しこ名らしくカドのないしこ名が有利な項目。読みに無理があったり、構成に違和感のあるしこ名はマイナス評価した。

 読みの観点では、阿武咲や碧山、阿炎の難読ぶり、音訓混在の貴景勝、琴奨菊らはマイナスは避けられず。

 構成では、動物混在の鶴竜、山海混在の御嶽海、対義語にも見える高安が気にかかる。造語感が強く、上下の意味につながりがない稀勢の里も若干違和感。意味がつながるという点では、荒鷲や隠岐の海、千代の国などは優れている。千代丸も妙に納得感があって自然である。

 

【音色】

 読み上げたときにどう感じられるかの評価。

 しこ名といえば4~5音が標準的。行司や呼び出しの調子もそれが一番合う。

 したがって長すぎ、短すぎはマイナスとした。長いと言えば幕下の「しょうなんのうみ」、短いと言えば栃乃若が新十両まで名乗っていた本名の「り」。ただし、6音でも豪栄道、千代大龍のように最後の音が伸ばせると字余り感を緩和できるし、響きも良くなる。

 音の読みやすさというのもポイント。標準的な5音でも、かつてアナウンサー泣かせで知られた「とちのなだ」など、鼻音の並びによって読みにくくなる場合もある。

 1位としたのは白鵬で、「柏鵬」の音を取るという反則級。2位グループの豊山も馴染みの深さが加味。訓読み5音というのは放っておいてもしこ名らしい響きになるが、音訓が混じるとやはりガチャガチャした調子になってしまう。

 

【由来】

 どういった意図を持って名付けられたかの評価。エピソードに深みが感じられるほど加点。一応何かしら思いがこもっているはずなので、3点未満はつけなかったので、あまり大差はない。

 高い評価としたのは、ここでも「柏鵬」が由来という白鵬。普通ならしこ名が大きすぎて潰れないか心配になるところだが、柏鵬の合計優勝回数をも超えてしまった。白い鵬という字も体躯にピッタリ。合わせ技では、北勝富士も師匠と大師匠の2横綱から取ったもの。一門すら違う名横綱から取ってきた白鵬より納得できるし、「千代の富士」も同様に師匠と兄弟子の2横綱から取ったしこ名で、九重系統の伝統も感じられる。但しいずれも実は2代目で、期待の現れという説明は後付け感がある(上記により満点ならず)。

 蒼き狼の国から来た蒼国来、当て字の名作逸ノ城、故郷に届いた新幹線から取ったタイムリーな輝。由来の新鮮さを買って高評価した。師匠のニックネームで阿炎は新しすぎるが、個性の方で評価した。

 

【合計】

 合計点の上位。項目ごとの軽重は調整していないので点数順が総合点とは考えていないが、全体に穴のないバランスの良いしこ名、つまり嫌われる点が少なく万人受けするしこなであることは間違いない。

 最上位は白鵬とした。実績が伴わなければ名前負けのしこ名ではあるが、文句をつけようがない。しこ名を育てるのは力士自身であるという好例。続いて隠岐の海と豊山。以降も古風なしこ名が各項目で穴を開けにくく合計点では上位を占めている。現代的なしこ名で上位に入ったのは魁聖。その他現代的なしこ名や本名は何かしらマイナスの項目があって苦戦した。挑戦的なしこ名で万人受けするのは難しい。

四股名

タイプ

伝統

個性

字体

自然

音色

由来

合計

白鵬

やや古風

3.5

4

2.5

4

5

4.5

23.5

隠岐の海

古風

3.5

3.5

3.5

4.5

4.5

3.5

23

豊山

古風

5

2

4

4.5

4.5

3

23

錦木

古風

5

4

3

4

3

3

22

嘉風

やや古風

3

3

4

4

4.5

3

21.5

魁聖

やや現代的

3.5

3.5

4.5

3.5

3.5

3

21.5

古風

5

4.5

2.5

2.5

4

3

21.5

御嶽海

古風

3

4

4

2

4.5

4

21.5

荒鷲

古風

3

2

4

4.5

4

3.5

21

千代丸

中間

3.5

2.5

3

4.5

4.5

3

21

大奄美

やや古風

2.5

3.5

3.5

4

4

3.5

21

朝乃山

古風

4

2

3

4

4

3.5

20.5

逸ノ城

中間

2

4.5

4

3

3

4

20.5

英乃海

古風

2.5

2

4

4

4

3.5

20

玉鷲

古風

3.5

2

3.5

4

4

3

20

松鳳山

中間

2

3

4

4

4

3

20

竜電

やや古風

3.5

3.5

2.5

4

3.5

3

20

やや現代的

2

4

2.5

3.5

4

4

20

琴勇輝

やや現代的

3.5

3.5

3.5

3

3.5

3

20

鶴竜

やや古風

4

2.5

4

2.5

4

3

20

宝富士

古風

3

2

3

4

4.5

3

19.5

千代の国

やや古風

3.5

2

3

4

4

3

19.5

妙義龍

中間

1.5

4.5

3.5

3.5

3.5

3

19.5

稀勢の里

やや現代的

3

4.5

3

2

3.5

3.5

19.5

碧山

やや古風

2.5

4

4

2

4

3

19.5

栃ノ心

中間

3.5

3.5

3.5

2.5

3

3

19

阿武咲

やや現代的

3

4.5

3.5

1.5

3.5

3

19

千代大龍

中間

3.5

2.5

2.5

3

3.5

3.5

18.5

豪栄道

現代的

1.5

4

3.5

2.5

3.5

3.5

18.5

北勝富士

中間

3.5

2

2.5

2

4

4.5

18.5

栃煌山

中間

3.5

4

2.5

2

3.5

3

18.5

大栄翔

現代的

3

2.5

3

3.5

3

3

18

阿炎

現代的

2

5

3.5

2

2

3.5

18

琴奨菊

やや現代的

3.5

4

3.5

2

2

3

18

正代

やや古風

1.5

3.5

2.5

3.5

3.5

3

17.5

蒼国来

現代的

1.5

3.5

3.5

3

2

4

17.5

千代翔馬

やや現代的

3.5

2.5

2.5

3

3

3

17.5

貴景勝

やや現代的

3.5

3.5

3.5

2

2

3

17.5

遠藤

やや古風

1

2.5

3

3.5

3.5

3

16.5

大翔丸

やや現代的

3

3

3

2

2.5

3

16.5

石浦

中間

1

3

3

3

3

3

16

髙安

中間

2

3.5

2.5

2.5

2.5

3

16