最強小結(平成・項目別)

 最強横綱はもちろん、「最強大関」「最強関脇」は誰かという議論はたまに出るが、「最強の小結」の議論は見かけない。

 

 まずは平成時代に新小結を果たした力士に絞って、各要素を調査してみた。

(数字は令和4年夏場所終了時点)

 

 

1 小結成績

小結在位

①松鳳山    5

①遠 藤    5

③大翔鳳    3

③豊真将    3

③露 鵬    3

③旭道山    3

③三杉里    3

③時天空    3

③北勝富士 3

③旭 豊    3

 

 松鳳山、遠藤が5場所でトップ。

 現役の遠藤が上回る可能性はあるが、関脇に達すれば除外される。これに8人が3場所で続く。

 すべての元小結(平成期に新小結)を平均すると1.76場所。

 なお、最高位小結時点での最多在位は、のちの横綱稀勢の里で、9場所に達していた。うち負け越しは3場所だけ。8勝を4度、10勝を1度記録しながらも、尽く関脇に空きがなく、6度目の勝ち越しでようやく昇進できた。それまで、しばらくは「史上最強小結」だった。11勝なら空きがなくても関脇昇進というのが前例になっているが、せめて10勝なら無条件に上げてもいいのではないかと思う。

小結勝越

 旭道山、三杉里、旭豊、黒海、露鵬、遠藤の6人が記録。

 

 在位最多タイの松鳳山はすべて負越。ということは、昇進回数5回は単独最多である。

 上記6人は、いずれも小結で8勝7敗を1度記録しているが、運悪く関脇昇進は見送られている。運があれば、このリストから卒業しているはずなので、最も関脇に近いという意味では最強小結候補だ。

 だが、通算では必ずしも圧倒的な実績を残したわけではない。通算の幕内成績では最上位級の豊真将や北勝富士ですら、小結での勝ち越しがない。評価の分かれるところだが、それだけ小結の地位で勝ち越すのは至難の業であることは間違いない。最高位関脇でも、三役で勝ち越したことのない力士は多数いる。

 

 なお、最高位小結の力士では勝ち越して据置は各1回だが、運の悪い力士にはまだ上がいる。稀勢の里が5回新関脇昇進を見送られたのは上述のとおりだが、通算では土佐ノ海が6回も小結で勝ち越しながら据置を食っている。新小結を皮切りに、平成11年九州からは10勝、9勝もあったが4場所連続で見送られている。

小結勝利数

 最強の小結を語る上で、小結での成績も重要だ。中でも勝利数はそれだけ小結として多く活躍した証。

 勝利数では現役の遠藤がトップ。5場所在位し勝越1度、1場所平均6勝と健闘するも、関脇に届かず。同じく在位5場所で並ぶ松鳳山は23勝を記録するも、勝率は3割そこそこ。

 以降在位3場所の力士が続く。

 幕内通算での成績が目覚ましい北勝富士、豊真将らを抑えて、松鳳山、旭豊が上位に。

 

①遠藤    28

②松鳳山   23

③旭豊      20

④時天空   18

⑤北勝富士18

⑥旭道山   16

⑦三杉里   16

⑧露鵬      15

⑨阿武咲   12

⑩豊真将   12

小結勝率

 さすがに最高位在位中に5割を超えた力士はいないが、阿武咲は.480と肉薄。新三役で勝越し、2場所目も五分だったが、黒星先行した一番で重傷を負い、不戦敗分の負越1。その後番付運にも恵まれず三役復帰できていない。

 闘牙も負越1。1場所在位者では最高の7勝8敗の成績を残したが、復帰ならず。

 旭豊は3場所経験し、勝越しも1度。.444を残したが、これは幕内通算の.447とほぼ変わらないという怪記録。

 4位には.400で10人が並ぶ。うち在位1場所6勝9敗が7人。3場所が時天空と北勝富士、5場所が遠藤。

 

①阿武咲  .480

②闘牙   .467

③旭豊   .444

④浪乃花  .400

④和歌乃山

④濱ノ嶋

④琴稲妻

④垣添

④時天空

④霜鳥

④臥牙丸

④北勝富士

④遠藤

 

小結勝率下位

 一応下位も見ておこう。意外な力士が入っているかもしれない。

 初日に負傷した巴富士が唯一未勝利。

 千代大龍は途中休場もあったが、2場所で2勝。以下あまり解説することがないが、9位に大翔鳳の名前が出てきた。通算3場所皆勤したが、大きく負け越し。通算勝率5割超えの豊真将も小結在位時は大苦戦し、下位10傑に入ってしまった。

 

①巴富士  .000

②千代大龍 .087

③舞の海  .133

④孝乃富士 .133

⑤隆三杉  .200

 栃乃花  

 千代天山

 板井

⑨大翔鳳  .244 

⑩豊真将  .267

 白馬

 智ノ花

 常幸龍

 小城錦

 旭鷲山

在位時横綱戦勝利

 北勝富士、時天空、千代鳳、普天王、琴稲妻は、小結として横綱を1回ずつ破っている。北勝富士は金星7の上位キラーだが、ほかの4人は金星0。時天空は3場所、それ以外の3人は唯一の三役の場所に唯一の横綱戦勝利を挙げ、金星にならなかったのは不運である。盆と正月は一緒に来てはいけない。

 とはいえ、小結として活躍した一つの勲章である。

 


幕内成績

 まずは小結在位時の成績を取り上げたが、やはり総合的な実力を反映するのは幕内在位中の成績だろう。幕内力士としての実績の高さのランキングを行う(数字は令和4年5月場所まで)

幕内在位数・勝利数

 まずは、どれだけ長く活躍したか、どれだけ多く白星を稼いだかを見る。通算記録なので現役力士は少ないが、ベテラン2人はランクインしている。

在位数・勝利数10傑



 在位   勝   負   勝率
①隆三杉 71 ①472 567 .454
②時天空 63 ②431 494 .4659
③旭鷲山 62  ③408 507 .4459
④琴稲妻 60 ⑤405 480 .458
⑤高見盛 58 ③408 446 .478
千代大龍 55 ⑥370 409 .4750
⑦板井 54 ⑩331 438 .4304
⑧三杉里 53 ⑦367 428 .4616
遠藤 51 ⑧365 352 .509
⑨松鳳山 51 ⑨350 415 .458

  

 在位最多、勝利数最多は、隆三杉。勝率は平凡。三賞0、金星1。他項目では全く名前が挙がって来ないが、昭和56年から平成7年まで細く長く活躍した(歌上手で知られ、土俵外での活躍の方が目立つ?)。引退後も部屋付きで細く長くと思いきや、50歳過ぎて千賀ノ浦部屋を継承、さらに古巣の貴乃花部屋を吸収し、直後に貴景勝が優勝、大関を擁する部屋持ちに。停年が見えてきた頃に俄に忙しくなった。

 2位の時天空も三賞1、金星0と目立った実績はないが、足技で沸かせた。小結は3場所在位し、いきなり朝青龍を破るなど健闘。

 3位旭鷲山は実績豊富だが、10年以上の幕内在位中三役はわずか1場所。それもキャリア序盤だったので、連続平幕在位を記録した。三役在位率は役力士の中で最低となる。

 4位琴稲妻も平凡な勝率で、金星0、三賞2回と目立たないが、部屋旗揚げの資格を満たしている貴重な存在。唯一の小結は、33歳6ヶ月、当時2位のスロー昇進だったが、貴乃花を破って喝采を浴びた。

 5位に高見盛。独立資格の60場所には僅かに届かなかったが、東関継承も1年で断念しており、そこにこだわりはなかっただろう。三賞実績は豊富で勝率もベスト10。強豪小結と言えるだろう。

 6〜10位は上位キラーが並ぶ。現役の千代大龍は、一時十両にも落ちたが再定着し、遠藤共々来年には節目の60場所到達。引退した松鳳山も遅咲きながら50場所を数えた。

 旭道山は12位の48場所。議員に立候補しなければ、50場所を超えてベスト10に入っただろう。

 

 在位平均は37.8場所。闘牙、霜鳥がちょうどその辺り。平均くらいだと割と早く衰えた印象だ。

 

 なお、在位ベスト10と勝利数ベスト10は同じ顔ぶれ。400勝を超えるベスト5の中で高見盛と琴稲妻が入れ替わるのと、低勝率の板井が10位に落ちて3人が繰り上がるだけだ。

 敗戦数10傑もほぼ在位10傑と同じだが、高勝率の遠藤だけが免れて旭道山が入る。

 

 

在位数下位10人

  在位  勝  負     勝率
①白馬 8 55 65 .458
②若荒雄 14 89 106 .456
③常幸龍 15 92 121 .432
④智ノ花 16 104 121 .4622
⑤巴富士 17 112 117 .489
⑥浪乃花 18 117 153 .433
⑦千代鳳 19 125 138 .4753
⑧千代天山 23 144 181 .443
⑨旭豊 24 160 198 .44693
⑨栃乃花 24 155 194 .4441

 

 

 逆に幕内在位の短い方から。

 最短は白馬。軽量で遅咲きだったが、26歳で再入幕を果たすと4場所目には小結へ。ところが翌年、八百長問題で多くのモンゴル人力士とともに引退勧告を受け、在位一桁、まさにこれからという時に土俵を去った(技量審査場所の順列は前頭7枚目だがカウントせず)。新入幕の4勝11敗がなければ勝率5割に近かったが、在位が短いと影響が大きい。三賞、金星ともなし。

 2位の若荒雄も遅咲きで、3度目の入幕後上位にも進出、9枚目に下がったところで12勝で敢闘賞。翌場所小結となった。上位で奮闘しはじめていたが、同年後半3場所突然崩れて十両に転落すると、ズルズル番付を下げて戻ってこられなかった。大負けが目立つが、二桁勝利も3度あって勝率はそこそこ。

 3位常幸龍は怪我の多い力士で、早々と転落。勝率でもワースト3位。復帰への道は険しそうだ。

 4位智ノ花は27歳で入門して、負け越しなしで小結まで達したが、年齢的にもそこがピーク。3年で落ち、十両在位の方が長かった。特異な相撲人生。

 5位巴富士以下は、怪我に泣いて早々に幕内を滑ったり、晩成ながら早く衰えたりで長く活躍できなかった力士たち。

 通算在位、勝利が少ないから弱いかと言われると、活躍期間が短いので知名度では劣るものの、勝率ではベスト10にもそれほど見劣りしない。三賞獲得数ベスト10の力士もいる。

 

幕内勝率

 小結を最高位とする力士を比較するのであれば、幕内在位中の勝率は現役時代の強さの重要な指標になるはずだ。

 ただ、このクラスの力士を評価するのに勝率は万能とは言い難い。平幕では番付は負越数より枚数は下がらず、勝越数よりも枚数は上がる傾向がある(7勝8敗はほぼ0〜1枚以下の降下だが、8勝7敗はは上が空いていれば5,6枚上がることも珍しくない。)よって番付を維持するのに5割は必要なく、長く幕内で推移していれば、自然と負越しは増えていく。長く在位しながら勝率を維持するのは大変である。

 

 また、幕内下位で十両と往復したりすると、負け越しばかりが増えてみるみる勝率は下がる。定着までに苦労した場合に勝率が下がるのは仕方ないが、何度も幕内復帰するより、ひとたび落ちて間口い 十両以下で晩年を過ごせば、幕内勝率は維持される。

 一方、無理をおして出場するより、休場して大きく番付を落とすほうが勝率は下がらず、上位では休場して負けを増やさずに番付を下げ、下位を相手に大勝ち。これを繰り返すと勝率は高くなる。 そのあたりを踏まえた上でも、やはり低いより高い方が良い。

 いくつか集計方法を変えて算出したので、ご覧いただきたい。

 

 

幕内勝率上位

平成・規定出場回数なし(現役除く)

①露 鵬 .532

②豊真将 .504

③巴富士 .489

④岩木山 .480

⑤高見盛 .478

⑥千代鳳 .475

⑦普天王 .470

⑧時天空 .4659

⑨垣 添 .4657

⑩海 鵬 .464

 

 まずは平成期に初めて昇進した最高位小結の力士の幕内勝率上位10傑。通算成績の確定していない現役力士は、一旦除外している。

 最高位関脇の力士でも、なかなか幕内勝率5割は残せない中、2人が5割超を記録。

 露鵬はこれからという時に解雇されたので晩年期がないことが大きいが、25場所取っての.532は高勝率。小結での勝越しもあり、関脇に達していた可能性も十分ある。強さで言えば最上位クラスなのは間違いない。

 豊真将は休場で大きく番付を下げ、最後も長期休場で引退した影響が大きいが、50場所を超えての5割は見事。

 

 3位巴富士は新小結初日の負傷で休場。おなじ九重部屋の6位千代鳳も、同じく若くして怪我に泣いて転落、いずれも後半期は幕内にいなかったことも高勝率に影響。

 同郷の昭和51年組、岩木山、高見盛は特に考慮すべき事情なく、徐々に衰えていった上でなかなかの勝率を残している。長年実力者としてならし、上位でもあまり大負けしなかった。

 普天王は、それほど上位に定着したわけでもなく、最後は6場所連続負け越しで転落したが、勝率が下がり続ける十両との往復が少なかったことは勝率に好影響。

 時天空は病気で引退する前の2年ほど十両との往復だったが、大崩れの少ない力士でまずまずの勝率を残した。

 

 

幕内勝率上位

平成・規定出場回数なし(現役含む)

①露鵬   .532

北勝富士 .528

阿武咲  .510

遠藤   .509

⑤豊真将  .504

⑥巴富士  .489

⑦岩木山  .480

⑧高見盛  .478

⑨千代鳳  .4753

千代大龍 .4750

 

 ここに、現役力士を加えてみる。一般的に引退間際には勝率が低下することから、最終的にどのあたりに落ち着くか。5割超えの北勝富士、阿武咲、遠藤には、上位で現役を終えるより関脇昇進でリストから消えることを期待。

 

 

幕内勝率上位

平成・規定出場回数450(現役除く)

①豊真将 .504

②岩木山 .480

③高見盛 .478

④普天王 .470

⑤時天空 .4659

⑥垣添  .4657

⑦海鵬  .464

⑧黒海  .4622

⑨三杉里 .4616

⑩旭道山 .4610

 

 幕内在位5年にあたる出場450回を規定回数とし、それ以上の力士を対象として比較すると、勝率上位の露鵬、巴富士、千代鳳が外れる。

 幕下付出で引退の早かった普天王だが、出場回数にギリギリ乗った。これに時天空、垣添、海鵬とやはり大卒の力士が続く。黒海も入門年齢は高い。いずれもはじめから地力が高く、入幕当初に定着に苦労していない点は勝率に寄与した。

平成初期の叩き上げ、三杉里、旭道山も10傑入りしたが、この両者も入幕まで時間がかかった分地力を蓄えており、旭道山は新入幕で三賞。三杉里は4場所で新三役とスムーズに定着。三杉里より番付変動の激しかった旭道山だが、幕内力士のまま議員に当選したので陥落時の勝率降下がなく、同程度の数字となった。

 

 

幕内勝率上位

平成・規定出場回数450(現役含む)

北勝富士 .528

遠藤   .509

③豊真将  .504

④岩木山  .480

⑤高見盛  .478

千代大龍 .475

⑦普天王  .470

⑧時天空  .4659

⑨垣添   .4657

⑩海鵬   .464

 

 現役の北勝富士、遠藤はすでに規定の出場回数をクリア。阿武咲もまもなく規定に乗りそうだが、現時点では漏れたので、中退の豊真将を含めてトップ10は大学相撲経験者で占められた。いいのか悪いのか。力はあるのに、三役あたりで止まってしまう力士が多いということなのか。

 

 

幕内勝率下位

平成・規定出場回数なし(現役含む)

①孝乃富士 .4300

②板井   .4304

常幸龍  .432

④浪乃花  .433

⑤千代天山 .443

⑥濱ノ嶋  .4439

⑦栃乃花  .4441

⑧和歌乃山 .4454

⑨旭鷲山  .4459

⑩剣晃   .44691

11旭豊   .44693

 

 勝率下位13位までが.450未満。1場所平均にして6.75勝未満ということになる。

下位10人中で現役は常幸龍のみなので、現役含む・含まないでは分割せず、11位の旭豊まで含めて分析する。

 勝率下位10人の在位場所数は、ベスト10が2人、ワースト10が4人。やや短めだが、長い力士も入っているのが興味深い。

 下位4人は3厘差の接戦となり、特に最下位争いはまたまた濃いぃ2人の争いの末、4毛差で孝乃富士がワースト。

 入幕3場所目で金星。以後ほぼ前頭一桁で推移し、それほど弱い印象はない。61年11月から63年3月まで、1場所ごとに上位と9枚目を往復。僅かな勝ち越しで大きく上げては大敗して9枚目の繰り返し。通算7度の12敗以上を記録、対して二桁勝利は1度。その1度で「定位置」の9枚目から三役を射止めている。当時栄華を極めた九重部屋だからかどうかは知らないが、番付運の良い力士として知られていた。定着期間は平均以下(37.8場所に対し33場所)、負け越し数の嵩む十両との往復は一度もないのに、低勝率1位を記録するとは衝撃的だ。幕下陥落が決まって29歳で廃業したが、借金苦が主因らしい。転向したプロレスでもそれほど大成功でもなかったが、総合格闘技での大金星で一躍時の人になった。

 

 僅差の2位も曰く付き。年寄襲名を却下された唯一の力士で、のちに「強いのに星バンバン売ってました」と暴露して騒動を巻き起こした板井。上記の「孝乃富士番付贔屓説」もこの人の言。その真偽はともかく、幕内勝利数では10傑入り、金星4個の実績の持ち主が低勝率2位となったのは、3度目の入幕までに借金15を背負ったハンデ、長年に渡る上位での度重なる大敗(二桁勝利は2度)、最終在位場所で止めの15戦全敗。唯一の負越数3桁となっている。孝乃富士同様唯一の三賞獲得場所の11勝を活かして思い出三役。

 

 3〜5位は幕内在位の短い力士が続く。現役の常幸龍はデビュー27連勝の新記録を保持して期待されたが、4度の十両転落時に勝率を下げているほか、7枚目の10勝で三役に達した番付運による三役昇進で、大敗が多かったのが主要因。浪之花も幕内定着に苦労した力士で、上位対戦経験のないままラッキーな三役昇進。小結での6勝のほか3枚目以内ではいずれも6勝以上と健闘しているが、陥落間際の大負け続きが在位の短い力士には大きく響く。千代天山新入幕から3連続三賞の唯一無二の記録を引っ提げ新三役。その後も曲者として活躍していたが、故障で休場してから連続二桁黒星で陥落。再入幕場所も3勝12敗で一気に勝率が低下した。

 

 6位濱ノ嶋も新入幕から負け越し知らずで三役へ。当初は健闘していたが、まもなく上位ではきっちり大敗するようになった。大負けは多いが、二桁勝利は一度もなし。十両との往復はなかったが、大きく負け越した。

 7、8位は苦労人。栃乃花はまだ付出の基準の緩い時代ながら、大卒で前相撲から取り、5年かかって入幕した。新入幕で2大関を破って12勝のセンセーショナルなデビュー。翌々場所も二桁勝って小結に。しかし3勝に終わって貯金を吐き出し、間もなく十両との往復に。幕下中位からよく復帰して敢闘賞を得たが、1年半ほどでまた陥落。大勝も大敗も多かった。昭和の小結大錦を遅咲きにしたような相撲人生だった。和歌乃山は19歳で入幕し同学年同期の貴花田に追いつけと期待されたが、エレベーターが続いた。実に5年ぶりの入幕から5年ほど定着した。波は小さく、二桁勝つことはなかったが二桁黒星は5回だけ。最後の再入幕で2勝13敗に終わったのが響きワースト10入り。山あり谷ありだと、複数回の谷で勝率が大きくダウンする。

 9位には、幕内在位2位旭鷲山。モンゴル勢のパイオニアとして三賞5回、金星5個の実績を誇るが、勝率は低かった。幕内4場所目には三役昇進も1場所限り。年1回大勝もするが、負けるときは派手に負け、12敗以上が8度と孝乃富士超え。心臓病で突然引退して晩年期もないが、全盛期からコンスタントに低勝率。62場所でわずか2休と、休んで番付が下がることがなかったことも要因。淡泊な負け方も目立ったが、人知れず強行出場していたのかもしれない。

 10位は剣晃。貴ノ浪キラーとして名を馳せ、遠慮ない張り手と派手な投げで上位と渡り合っていた印象だが、大負けしては8勝で戻るパターンを繰り返しており勝率は低下。この頃は上位が強くて三役常連も多く、平幕上位は軒並み負け越しだったので、中位の8勝で大きく番付が上がった。病気で休場して亡くなってしまったので衰えた時期はないが、新入幕で9つ負け越したのはマイナスになった。

 

 常幸龍が引退までにワースト10を抜け出すのは難しそうだが、現役を除くと10位に入ってくるのが旭豊。全盛期の貴乃花を2度破るなど金星4。部屋継承のため幕内在位中にあっさり引退したので、晩年期の勝率低下も僅かなのはずが、この勝率は意外だ。二桁勝利はないかわりに、二桁の黒星も4場所だけと、低勝率のパターンには当てはまらないが、意外に下位だった。小結3場所で.444の成績を残しており、ほぼ幕内勝率と変わらないのは特異。

 

 

低勝率と他項目との関係

  • 4人が三賞3回以上受賞(トップ10クラス)
  • 10人全員受賞歴あり
  • 金星トップ10(現役含む)に4人
  • 3人が入幕から5場所以内に三役へ
  • 最後の出場が幕内だったのが3人
  • 在位トップ10に2人、ワースト10に4人
  • 勝利数トップ10に2人、ワースト10に4人
  • 小結在位はワースト8までが1場所、旭豊は最多タイ3場所
  • 旭豊は2位の小結で20勝、小結で勝越も

【勝率要因分析】

 

高勝率の要因

  • スムーズに幕内定着
  • 晩年期が短い
  • 番付の上下動が少ない
  • 大負けが少ない
  • 休場で番付を落とすことが多い

低勝率の要因

  • 幕内定着に苦労
  • 晩年期が長い
  • 大負けが多い
  • エレベータ力士
  • 番付運が良い

受賞歴

 

優勝

 平成期には、優勝して最高位小結止まりの力士はいなかった。

 初優勝時点で最高位小結以下は若花田貴景勝がいるが、2人共小結で優勝したので当然翌場所関脇に。そのほかの平幕優勝力士は、すでに関脇の経験があった。

 昭和では、富士錦若浪が平幕優勝を記録して長年活躍しながらも、最高位小結に留まっている。

 令和に初優勝した徳勝龍は、前にも後にも三役に上がることなく最高位平幕で終わりそうだ(十両で奮闘するが、間もなく36歳)。そうなれば大正末期に優勝した大蛇山以来。

 

三賞

 

三賞受賞回数上位10傑(現役含む)

①豊真将 7

遠藤 6

③旭鷲山 5

③舞の海 5

③高見盛 5

⑥栃乃花 4

⑥小城錦 4

⑥松鳳山 4

⑥旭道山 4

阿武咲 4

 

 現役を除いて唯一勝率5割以上の豊真将が、ここでも1位に。2位に現役遠藤、6位タイに阿武咲と勝率5割超の力士が入ってくる。

 しかし、勝率との相関は高くない。3人のほか上位10傑は高見盛だけ、あとは.440〜.460ほどの力士ばかり。勝率ワースト10の旭鷲山が3位タイ、栃乃花も6位タイに食い込む。千代天山も単独12位の3回(新入幕から3場所連続の新記録!)で、現役を除けば10傑入り。一方、勝率5割超の北勝富士は圏外に沈んだ。

 受賞には目立った活躍をすることが必要なので、安定した成績を求められる勝率とは性格が異なり、ムラのあるタイプの方がチャンスが多い。目を引く相撲ぶりや大物食いなど、勝ち星では測れない要素が影響することも要因だろう。

 技のデパートの本店、モンゴル支店、ロボコップと、個性派が上位を占める。

 なお、平均すると1人2.1回の受賞。

 

 殊勲賞最多は旭道山の2回。敢闘賞は豊真将の5回。技能賞は舞の海の5回。

 三賞未受賞者は6人。幕内在位で1位の隆三杉が含まれる。

 なお、受賞数1回の12人のうち、8人が敢闘賞だった。

 

 

金星

金星獲得数上位10傑(現役含む

北勝富士 7

遠藤 7

③三杉里 6

④松鳳山 5

④旭鷲山 5

阿武咲 4

⑥旭豊 4

⑥板井 4

千代大龍 3

⑨千代天山 3

 

 1位は現役の2人。

 北勝富士はこれで殊勲賞に縁がないのだから不思議だ。上位で二桁勝つこともあるが、大物を食った場所ほど失速する傾向がある。

 遠藤は入門から8場所目で早くも初金星(3位)。そこからコンスタントに稼いでいる。こちらも殊勲賞は1回、上位を食っても技能賞に流れがち。

 

 3位三杉里も、三賞は1度きり。まともな四つ相撲ながら、土俵際の魔術で上位を苦しめた。また、全盛期に横綱が空位になって金星を伸ばし損ねたが、唯一の対象となった曙から3個獲得。貴花田にも初顔から5連勝していたが、合併で同部屋になり大関昇進後は対戦がない。

 遠藤、松鳳山、旭鷲山、旭豊、阿武咲は三賞でも10傑入り。大物を食う印象的な活躍が多かったという点で、三賞受賞回数との相関性は高い。なお、旭鷲山は朝青龍の反則を誘った1勝があり、横綱の反則は前例がなかったが、金星ではないとされてしまった。

 

 ほかに三賞10傑以外では、板井、千代大龍、千代天山もランクイン。執拗な張り手を繰り出した板井は大乃国、強烈なかち上げからまともに叩く千代大龍は日馬富士、前に出ない軟体相撲の千代天山は武蔵丸から、それぞれ複数金星を挙げている。あまり褒められない得意技で大物を食っているのが面白い。

 

 金星といえどもただの1勝、勝率と関連は薄い。上位3人こそ勝率は上位だが、下位の板井、千代天山、旭鷲山、旭豊もランクインしている。

 

 金星獲得0

 18人が獲得していない。ただし、琴稲妻、普天王、時天空、千代鳳は小結の場所で1回ずつ横綱を倒している。

 舞の海は曙、貴ノ花に勝っているが、横綱昇進前。闘牙は若貴両横綱をもつれる相撲で負傷させているが、いずれも惜敗。濱ノ嶋は殊勲賞を得ているが、横綱不在中。栃乃花は新入幕で2大関を破ったが、横綱にはついに勝てなかった。

 勝率1位の露鵬、三賞最多の豊真将の名もある。この2人が活躍した朝青龍から白鵬の時代は、滅多に取りこぼしがない上に一人横綱の場所も多く、4横綱の時代とはかなり条件が異なる。

 

横綱戦勝利

 不戦勝を除いた横綱戦の通算勝利数。

 金星10傑と大きな変動はないが、小結でも横綱に1勝している北勝富士が単独トップ。反則での勝利がある旭鷲山が1つ順位を上げた。