昭和相撲史発掘 本場所編

昭和57年5月場所

概要

 

トピックス

 千代の富士初の連覇

 朝潮3場所ぶり挑戦も返り討ち

 

優勝

 千代の富士

 横綱

 13勝2敗

 決定戦

 

記録

 同一カード決定戦、一方が関脇以下は唯一。

 序盤終えて横綱大関関脇揃って4勝1敗

 全階級で決定戦 制度下初

 

歴史的観点

 千代の富士一歩抜け出す

 北の湖途中休場も、若乃花が復調し優勝争い

 3横綱2大関、2場所目も安定感

 

前場所からの流れ

 56年は千代の富士3回、北の湖2回。57年に入って北の湖、千代の富士と賜盃を分け合う二強時代。前年から不調の続く若乃花は11勝でようやく上向き。二桁を続ける大関隆の里、琴風は3場所目で二桁を割り、ちょっと勢いが萎みつつあるが、昨秋を制した自力は健在。まだ新鮮な顔ぶれだが、油の乗った年代の彼らの安定感は頼もしい。

 ここに成長著しい若島津、三役で10、9勝ながら三賞2つと急に存在感を高めた出羽の花が両関脇。大関候補と言われて久しい麒麟児、朝潮も小結に復帰。次の大関を虎視眈々と狙っている。

 二強の図式が固まるのか、それとも割って入る者が現れるか。

 新入幕は3人。大豊に、玉龍と多賀竜。「たまりゅう」と「たがりゅう」

 

この場所の成果

 序盤の見事な横一線スタートに見えるように、ちょっと隙はあるが堅調な横綱陣に、昇進の勢いを駆る両大関。優勝争いは、中盤を無傷で乗り切った千代の富士がリード。2差以内で役力士が追いかける締まった展開。終盤に入り故障した北の湖、直接対決で琴風と脱落していくが、隆の里が千代の富士を引きずり下ろしたことで面白くなった。追いついた若乃花、朝潮が最後まで並走した。

 結果的には千秋楽に自力で両者を振り落とした千代の富士が、自身初めての連覇を達成。直近1年で4度の優勝を記録し、いよいよ名実ともに角界の主役らしくなってきた。

 9勝3敗から上位直接対決を前に休場してしまった北の湖に陰りが見える一方、昨春の休場以降長らくスランプに陥っていた若乃花が、前の場所の11勝に続いて安定感を取り戻して千秋楽まで首位に立ち、健在ぶりは示した。

 大関レースでは遅れを取った朝潮が、3場所ぶりの決定戦進出。今度こそ大願成就なるか。それよりも大関に近いのが関脇で3場所30勝をマークした出羽の花。あと1つ、12勝していれば琴風と同じ31勝。当時の基準ならゴリ押しできたはず。前半に平幕黒瀬川、巨砲に敗れたのが惜しまれるが、通算対戦成績でも互角の相手だった。チャンスを逸し、出羽海部屋の大関は令和まで生まれなかった。一方で躍進が続いていた西関脇若島津は4場所ぶりの負け越し。小休止となった。

 平幕上位は軒並み負け越し。下からの突き上げはもの足りなくなってきた。新十両・初代霧島は負け越して陥落。幕下の上位に大ノ国、北尾、保志、寺尾らが進出してきた頃。

 

三賞

殊勲 朝 潮⑦  当然のように北の湖を撃破、決定戦進出。

敢闘 朝 潮③  実績十分でも13勝ならダブル相当。

技能 出羽の花② 関脇で11番。正攻法で堂々の2横綱撃破。

 

 三賞は異論のないところだろう。2横綱1大関を破って13勝の小結朝潮は、優勝争いの功も含めて殊勲賞に相応しい。出羽の花は千秋楽も勝って2横綱2大関と上位戦成績では上回るが、前ミツ引きつけての内容ある相撲ぶりは技能賞に回してもいいだろう。

 平幕は高砂部屋の両ベテランが10勝に乗せたが、目立った活躍ではなく、2人の受賞者との差は大きいので今場所はノーチャンスで仕方ない。

序盤戦

 3横綱2大関は揃って4勝1敗。さらに両関脇も同じく1敗と、文字通り横一線で序盤を終えた。

 千代の富士は2日目大寿山に土俵際で体が入れ替わって寄り切られる。ミスと言わざるを得ないが、それ以外は出足鋭くまずまずの立ち上がり。北の湖は初顔若の富士の思い切った小手投げを食った。他の相撲は冷静だが前に攻めきれず、好調とはいえない。若乃花は朝潮の出足を受けてしまって完敗したが、4日目までは無難だった。

 隆の里も仲良く朝潮の馬力にしてやられたが、他は力強く、栃光相手に上手捻りも決めた。琴風は大錦得意の下手投げをまんまと食ったが、それ以外はしっかり前へ出ての快勝。上位キラー朝潮の出足も止めた。

 出羽の花の力強さが目立ち、新関脇若嶋津はスピード、目まぐるしい差し手争いからの投げも冴えている。

中盤戦

 横一線から、唯一中盤戦を無傷で終えた千代の富士が単独トップに。鋭い寄り身で圧倒する相撲が、左前ミツを掴む速さが目立つ。

 

 苦手朝潮に押し出されて6日目で2敗となった北の湖だが、崩れはせず踏ん張っている。

 千代の富士、琴風に連敗で始まった小結朝潮だが、2横綱蹴散らした勢いで8連勝。9日目は大錦の出足に俵に詰まりながら、無理目なうっちゃりを試みると勇み足で命拾いする幸運も。2敗勢の中で唯一上位戦を終えているのもアドバンテージ。 

 若乃花が復調を見せていたが、10日目関脇出羽の花に上手投げを食らって2敗目。

 

 その出羽の花は、黒瀬川、巨砲にあっさり寄り切られるあたりは軽量の泣きどころだが、堂々たる取り口で平幕勢を退けると、琴風に加えて横綱も食った。

 

 朝潮と大錦の出足に屈した大関隆の里だが、安定した取り口で追撃。中盤4勝は全て寄り切り。琴風は早くも中日に千代の富士戦が組まれて、2敗。このカードは7連勝後9連敗と、逆にカモにされている。出羽の花にも叩き落とされ上位で唯一3敗となった。とはいえ上位陣の安定ぶりは及第点。

 

 全勝こそいないが、上位陣は揃って安定したまま終盤戦へ突入。関脇出羽の花、小結朝潮も加わり番付通りの活躍が見られる好展開。その煽りを受けて小結麒麟児が突き押し不発で10連敗。序盤は1敗だった関脇若島津は上位戦が始まり4連敗で五分の星に。平幕上位も軒並み苦戦し、金星を挙げた太寿山、若の富士も既に7敗と後がない。7枚目の北天佑が朝潮と相星対決に挑んだが、掬い投げで圧倒され、平幕勢は全て3敗以下になった。

 

 昨秋から1場所おきに入幕している白竜山、3度目の正直と挑んだ今場所は2日目から4連勝。小兵ながら小気味良い突っ張りで富士櫻も下したが、高見山に押し出されて右足首を負傷して無念の休場。公傷が認められたが、以後下げ止まることなく約1年後に引退してしまった。

十一日目

2敗出羽花、連日の横綱戦

 

 多賀竜は立合い素早く右差し。左の浅い上手を掴む得意の形で一方的に神幸を寄り切った。

 

 十両の岩波がぶちかましからハズ押し、前掛りになって一直線。大豊を土俵下まで吹っ飛ばした。

 

 飛騨ノ花が張り差し気味に捕まえにいくが、魄龍は両前みつ、右肘を張って食い下がる。飛騨、何とか起こそうとするも根負けして寄り切られた。魄龍は新十両から連続30場所の在位記録を残した「番人」。十両筆頭が最高位。引退後若者頭となってから、伯龍と改名している。あの伯龍さんだった。

 

 突っ張り合い、小兵栃剣が相手で上突っ張り気味になった大潮は、右下手前みつを許して頭をつけられると、出投げにバッタリ。

 

 突いて出てすぐ引いた玉龍。富士櫻が付け込んで押し出し。

 

 立合い低く当たってうまく二本差した鳳凰、すぐに得意の右から投げて高見山を転がした。

 

 左前みつの速かった蔵間。嗣子鵬が双差しになるのも構わず、引きつけて寄り切った。

 

 栃赤城の右差しをおっつけて左を差し勝った東洋だが、左大きく踏み込んだ栃赤城の足技にひっくり返された。

 

 左へ飛んだ黒瀬川、騏ノ嵐が残すが双差しになって寄り立てる。防戦一方の騏ノ嵐だが、右巻き替えて堪え、なおも寄ってくるところ土俵際掬い投げ。しかし先に土俵を割ったとして、物言いの末に敗れた。のちにベテランになって幕内に戻ってきた騏ノ嵐。貴重な若い頃の姿だ。

 

 若の富士差し負けて強引に小手投げ。大錦残したが、少し腰が入ったところを押し倒された。大錦の腰砕け癖は不思議。腰は重いのに、足腰強いのか弱いのか。

 

 青葉城が注文相撲。栃光は土俵に突っ込み負け越し。

 

 佐田の海が右のぞかけて出たが、天ノ山は突っ張って距離を取って逆に左を入れると、嫌った佐田が下がるのに突いていって押し出した。

 

 ぶちかましからの突っ張りで巨砲を圧倒した朝潮。滴る額の血潮が破壊力のシンボルだ。

 

 遮二無二突っ張って前に出た麒麟児、最後はバランスの崩れた大寿山に抱きつき、後縦みつを掴んで必死に寄り倒し、ついに初日。

 

 右上手を引きつけて積極的に出る若島津。左下手で腰の重い魁輝を寄り切った。

 

 大関対決。頭でいった琴風。腰を落として胸で受ける隆の里。当たった勢いで突っ張った琴風、隆の里に全く廻しに触れさせず、離れて勝負を決めた。両者8勝3敗。

 

 千代の富士は闘竜が両手で当たりつつ左に動いて叩くのを難なく前に出て堪え、俊速の出足で圧倒した。

 

 左上手を狙った若乃花。そのまま投げから両下手で抱きつくように攻め立て、北天佑を寄り倒し。若手相手にも対面に拘らずしっかり食いつく相撲で1差を死守。

 

 2敗対決。突っ張って離れて勝負をつけようという北の湖。四つ相撲の出羽の花はこれを跳ね上げて堪え、はたきに乗じて接近、おっつけて左を入れると、横綱が腕捻りから突き放そうとするのを許さず、再び左おっつけから懐に入り、双差しの形で寄り切った。連日の横綱撃破、先場所に続く2横綱食い。遅咲きの31歳がスポットライトを浴びた。明日千代の富士も食って横綱3連破となれば、優勝、さらには大関昇進のムードも高まってくる。

 

1敗 千代の富士

2敗 若乃花、出羽の花、朝潮

3敗 北の湖、隆の里、琴風

十二日目

出羽花、横綱3連破なるか

 

 十両王湖が突き合いから左で突き落とすが、自らもバランス崩し、両者離れて土俵に転がる。吉本新喜劇さながらのあっちゃこっちゃへの転びっぷりだったが、一瞬栃剣が早かった。

王湖というのはあの王湖さんのことで、のちの世話人。この場所一世一代の頑張りで新入幕を果たす。同部屋の魁輝とは良い仲だったらしいが、若くして亡くなったのは惜しまれる。

 

 低く当たった飛騨ノ花、しかし舛田山が突き上げて起こし、得意のまともなはたきで仕留めた。

 

 右差しの神幸、これをおっつける大豊。土俵中央、さっと左へ開いて神幸が叩き込み。タイミング良く決まった。大豊は幕内残留絶望の10敗目。

 

 右差して出た鳳凰、栃赤城が半身で河津がけか何か仕掛けようとするのを、右腕返してねじ伏せた。

 

 左四つ、胸を合わせた高見山が右上手引きつけて、上手取れない騏ノ嵐を寄り切り。

 

 大潮がぶちかましたが、左四つに組み止めて、上手を取った魁輝。攻勢をかけ、寄っておいての上手投げでねじ伏せた。

 

 終始突っ張って出た富士櫻。回り込みつつ対応した青葉城だが、ついに腰から落ちた。

                                

 佐田の海、右の前みつを取っての速攻。ガブって最後は廻し離して嗣子鵬を押し出した。

 

 蔵間、右カチ上げ不発も右前みつ。黒瀬川、中に入って双差しで堪え一度は反撃に出たが、懐深い蔵間に外四つで寄り切られた。

 

 突いた栃光だが、巨砲が掻い潜って左前まわし。右覗かせ頭をつける。右半身は得意な栃光だが、左巻き替え切れずに挟み付けられ土俵を割った。

 

 両手突きから上突っ張りの若の富士。左四つ右上手で組むと、右上手投げが豪快に決まった。太寿山元気なく9敗目。

 

 天ノ山の突き押し炸裂、玉龍を一方的に押し出した。

 

 肩で当たって左差し狙いの大錦。突っ張る麒麟児の突き手を払いつつ、横から後ろミツに掛かると、上手投げで崩して出た。

 

 左を入れた若嶋津が右も入れて双差しで攻勢。しかし、左ハズに当てがったりさらに優位に組もうとするうち、うまく下手を切った朝潮。一瞬体が離れ、左四つに組み直すと、体格活かして一気に寄り倒し。馬力炸裂の圧勝ばかりでなく、不利な体勢からも挽回してしまうのはこれまでと一味違う。

 

 再三突き放しにいく北天佑。堪えて組み止めようとする大関隆の里。北天佑が強引に上手を取りに来たところで二本差し。豪快に掬って転がした。

 

 ぶちかましから突っ張りの琴風。下がらず突っ張り返した北の湖、冷静に見極めて叩き込んだ。琴風4敗目、脱落。

 

 首位千代の富士に1差の関脇出羽の花が挑む。立合い両者得意の右四つ左前ミツ。出羽の花が「鉄の爪」で引き付けるが、力勝負は横綱に軍配。引き付け勝って右へ横吊り、完全に浮き上がってしまった出羽の花、なす術なし。横綱3連破とはならず。優勝争いから一歩後退。

 

 結びの一番。闘竜が押して出たが、上手に掛かった若乃花が体を開いて華麗な投げ。2敗を堅持した。

 

1敗 千代の富士

2敗 若乃花、朝潮

3敗 北の湖、隆の里、出羽の花

十三日目

 神幸、左入るとすぐの肩透かし。十両3枚目の榛名富士を這わせた。入替を見据えた7敗同士の一番、踏ん張ったのは前頭14枚目。榛名富士はのちの横綱のイメージに引っ張られがちだが、対照的なアンコ型。

 

 こちらはなぜ幕入り後に呼ばれたかわからない、再出場で既に負け越し相当の5枚目青葉山だが、右四つがっぷりから上手投げで崩しての寄り倒しで、すでに陥落必至の新入幕大豊を下した。

 

 既に負け越しも、幕内残留をかけて踏ん張りたい両者の対戦は、玉龍が右四つで両廻し引き付け、飛騨ノ花を寄り切った。飛騨10敗で残留険し。

 

 鋭い当たりから左四つ右上手の騏ノ嵐、懐の深い蔵間を一方的に寄り切った。

 

 右で抱え込んだ魁輝は左半身。右の浅い上手で頭をつける多賀竜。魁輝はうまく下手から出して崩し、両前ミツ。守りから入って技で逆転したベテランが寄り切った。新入幕は勝ち越しお預け。

 

 栃剣、右へ飛んで肩口を突き落とし。東洋バッタリ。注文相撲で勝ち越し。

 

 もみ上げ対決。張り差しで左入った青葉城だが右上手は遠く、大潮が出てくるとうっちゃりきれず下敷きに。大潮勝ち越し。

 

 両者素早い当たりから突き放した富士櫻佐田の海を起こしての叩きが決まった。勝ち越し。

 

 黒瀬川がまっすぐ当たって左上手。半身で逃れようとする栃赤城の逆転技を繰り出させず、寄り切った。栃赤城元気なく負け越し。

 

 突いて出た若の富士鳳凰の出足に下がったが、珍しく二本差して堪え、なおも出てくるのを掬い投げで転がした。

 

 おっつけから左差しの大錦。左膝を使いながら寄って出るも、堪えた嗣子鵬に投げを打ち返されてもつれたが、一瞬嗣子鵬が早く落ちており物言いなし。

 

 負け越し確定同士。天ノ山が前に出ようとするが廻しも届いておらず、栃光の引きにダイブ。

 

 挟み付けるように出た高見山大寿山を吹っ飛ばして給金。

 

 麒麟児必死の突っ張りも、跳ね上げて堪えた巨砲が双差しに入って寄り切り。

 

 北天佑、得意の「右のどわ突き」を再三食らわし、若嶋津を怒涛の攻めで押し出した。

 

 優勝争い生き残りをかけて、好調三役対決。出羽の花が前みつを探る。しかし左でこれを厳しくおっつけた朝潮、右喉輪を併用して一方的に押し出した。連敗の出羽の花は4敗となり脱落。一躍大関、という夢は萎んだ。

 

 北の湖が休場。いつも包帯を巻いている古傷の左足首を捻挫した。若乃花が不戦勝。久しぶりに共に優勝争いの中での北・若横綱戦だったが、流れた。

 

 やや立ち遅れた闘竜、左突き落とし。残した琴風だが、闘竜が左、右と差してモロ。両上手取った琴風、寄り立てられたが脅威的な粘りで俵で踏ん張ること二度三度、四度五度。よく残したが、廻し待ったのあと再び寄られると、なおも粘るもののついに右膝から崩れ落ちた。危ない形だったが、怪我はなさそう。

 

 千代の富士の連覇への道に難敵が立ち塞がる。立合い素早く左前みつ取ったのは隆の里。これを少しずつ挽回した千代の富士。ここぞと出た土俵際、土俵の外へ外掛けで決めにいったのが失敗で、堪えた隆の里体を入れ替えた。これで隆の里には大関時代からカード5連敗。出世とともに苦手だった琴風を圧倒する一方、そうでもなかった隆の里には勝てなくなる不思議な現象である。

 

 

2敗 千代の富士、若乃花、朝潮

3敗 隆の里

 3人が首位に並び、殊勲の隆の里も1差に肉薄。北の湖が離脱したものの、混戦模様になった。

十四日目

首位3人 2敗守るか

 

十両の魄龍が出鼻を引っ掛けると、栃剣はもんどり打って倒れた。ただ引っ掛けるというかは腕捻りのような不思議な決まり方だった。

 

立合いで左を深々と差した神幸玉龍の捨て身の投げを警戒し、左をハズにして押し上げつつ、最後は再び左を返して掬うように寄り切った。

 

大潮のまともな叩きに富士櫻が足にしがみつくように倒れてもつれ、同体に。2度目は回転良く突っ張った富士櫻が大潮を土俵下まで押し倒した。

 

右へ飛んだ若獅子が左足一閃。思い切ったけたぐりに、嗣子鵬バッタリ落ちた。

 

張り差しで左四つに捕まえた青葉城、前に出ながら左を返して掬い投げ。多賀竜を見事に転がした。両者7勝7敗。

 

栃赤城の突き押しを堪えた巨砲、十分の右四つ左前みつの形を作ると、相手の下手投げに傾きながらも踏ん張って寄り切り。

 

若の富士激しい上突っ張りから左四つ。うまく上手を切ってさあ攻めようという時に廻し待った。再開後、腰の重い魁輝を攻めあぐねるうち、巧者に頭をつけられ崩されて寄り切られた。

 

押しては押し返される展開の末、黒瀬川栃光を押し出し。前頭3枚目、楽日に勝ち越しをかける。上位は軒並み負け越し、新三役がかかる。

 

大錦頭で行って、左の厳しいおっつけて蔵間の逆襲を完全に防き、寄り切った。蔵間は勝ち越しならず。

 

騏ノ嵐が左差しに成功。組み負けた大寿山だったが、左返して右上手引き付けると、一枚上手が伸びるのも構わず豪快に巨漢を投げ捨てた。意外と言っては失礼だが、のちに「幕内の番人」と謳われる貫禄を垣間見せ、勝ち越しをかける新鋭を退けた。

 

天ノ山の両手突きに合わせるように手を出して立った高見山。組み止めると一方的に寄り切った。

 

まだ1勝と調子の出ない麒麟児に対し、東洋は左変化。ところが全く効果なく突き出されて惨敗。

 

首位の一角・朝潮。喧嘩四つの鳳凰に立合い右差され、出足も止められたが慌てない。左をこじ入れようとし、鳳凰がこれを防いで前傾になるところを、すかさず引いてはたき落した。

 

東西関脇対決は、見応えのある熱戦に。立合いは両者差し手をぶつけ合い、若島津が左差しを果たすが、出羽の花は右で浅い上手。これでも力が出る。引き付け合いで両者の体が回るうち、出羽の花は左を抜いて上手前みつに。両上手前みつで挟みつけられては苦しい若島津、右抜いて下手投げ。しかしこの隙に頭をつけられる。ここから攻勢は出羽の花。若島津も何とか上手を取ろうとするが、食いつかれて最後は両下手で懐に入られ、棒立ちになって寄り切られた。負け越し。出羽の花は2場所ぶりの10勝。

 

隆の里闘竜の両脇固めての体当たりを受け、引いて呼び込んだが回り込み、右差して出足を止めると、右下手がっちり左もねじ込んで寄り切り。首位と1差を守った。

 

千代の富士は難敵北天佑に対し、立ち合いすぐに右差し左前ミツ。まわし1つ分低い体勢での引き付けに、北天佑たまらず土俵を割った。朝潮に続き首位キープ。

 

結びの一番、気合十分の琴風は、頭ではなく差しにいくような高さで勝負。胸で当たった両者。若乃花はこだわらずに前傾姿勢に構えて出足封じ。上手狙いの右を再三嫌われると、逆にその手首を取って引っ張るように捻りつつ、上手投げとの合わせ技。懐の深さを活かした相撲で大関を退け、55年九州以来の首位タイで千秋楽へ。

 

 

2敗 千代の富士、若乃花、朝潮

 楽日はトップに並ぶ両横綱の対決のため、1差の隆の里はここで脱落。朝潮は明日も平幕の若の富士。負け越してはいるが、初挑戦にして北の湖から初金星で6勝と自信をつけている。さらに千代の富士の援護を果たせばパレードの助手席は確定だ。油断できない。

千秋楽

横綱決戦、朝潮勝てば決定戦

 

いよいよ千秋楽。

 

十両優勝は斉須。あの斉須さん。YOSHIKIを怒らせた世話人の。新入幕では跳ね返されたが、十両では2場所前と同じ11勝。序盤下位相手に3敗したが、中盤以降は筆頭の高望山に敗れたのみ。本割で幕内経験豊富な舛田山との相星対決を制し、高望山を決定戦で下した。翌年には幕内上位から中位で推移するが、全盛期は短かった。

 

十両以下の各段優勝力士表彰式。スラリとした斉須を先頭に、下の段の優勝者ほど太くなる気がするのは気のせいか。しかし、彼らはすべて決定戦を制してこの場にいる。

 

幕下は3戦勝ち抜いた筆頭の若瀬川が制した。準優勝は1回戦で北尾を破った出羽の洲。のちに3度幕下を制すが、6勝1敗での決定戦に通算4回も進出。幕下決定戦通算10勝2敗の怪記録を残している。

 

幕内前半戦

 

幕内初口は、7−7同士の入替戦。神幸、十両魄龍をはたき落として勝ち越し。2枚目魄龍無念の負け越し。この前後数年、十両上位に定着して何度も筆頭、2枚目に名を連ねながら、ついに入幕できなかった。幕内力士と4番組まれて五分に取ったこの場所で決めたかった。

 

左肩から当たった十両・榛名富士は半身で頭をつけるが、攻めを繰り出せないうちに右上手を引き付けた大豊に寄り切られた。

 

いきなり叩いた青葉山。奏功しなかったが、飛騨ノ花戸惑う隙に右四つ左上手。廻しを引き付けて寄り切った。再出場後4勝3敗と頑張って6勝したが、その後も調子は戻らず秋場所で引退する。

 

聞き間違い必至の新入幕同士が、千秋楽の顔合わせ。真っ向勝負となったが、右四つ十分の多賀竜が低さ勝ちして玉龍を寄り切って勝ち越し。玉龍は10敗で転落濃厚。

 

激しく当たった騏乃嵐、得意の左を深々と差すと、右もコジ入れて両差し。がぶって前に出て、右をぐいっと返し、鳳凰を圧倒した。いかにも怪童といった出で立ちの20歳は、2桁勝利なしで十両を2場所通過する幸運の持ち主。この一番で幕内でも連続勝ち越しを決め、これまた番付運良く名古屋場所で上位挑戦。この場所で隆の里、さらに秋には北の湖を破る活躍で、三役目前まで迫っての怪我が惜しまれる。近年になって照ノ富士、宇良が序二段から復活したが、三段目まで落ちてから再入幕した初の力士として、もう少し讃えられてもよい。三角形の額といい体躯といい、千代鳳を見たときにイメージが重なったが、若くして金星を取りながら早々に陥落して幕下以下で苦しむところまで重なってしまった。

 

高見山は大潮の牽制的な突きをものともせずに押出し。二桁に乗せた。

 

7−7対決。立ち合いで両前ミツに掛かった蔵間。左四つに組み止めて、青葉城を上手投げに下した。とはいえ7枚目で8勝はもの足りないか。

 

低く鋭い当たりの富士櫻、おっつけから少しいなし、もう一度押してからの叩きで給金のかかる巨砲を下した。同僚高見山に負けじとベテランが二桁。巨砲、拳で土俵を叩いて悔しがる。もはやお約束?

 

胸で当たり合って、盛んに右前ミツを探る黒瀬川。突き放そうとする魁輝。ついに左差し右前ミツの形を作った黒瀬川が寄り切りの勝ち。

 

大錦が捕まえようとするのを、喉輪で防いで突っ張った栃剣。さらにハズにあてがって押し出した。27歳の小兵は、入幕2場所目で初めて勝ち越し、9番まで伸ばした。

 

 

後半戦

 

右差して一気に走る佐田の海だが、右入るとしぶとい栃光に残された。それでもさらに引き付けて吊り気味に寄って5勝目を挙げた。2枚目栃光4勝止まり。

 

天ノ山がよく見て突いて出ると、東洋消極的に引いて大きく下がり、最後の突き落としに天ノ山が踏み出しそうになったが、先に東洋がかかとから踏み出した。両者5勝10敗。

 

嗣子鵬両差し、外掛けで崩して出るが、土俵際右で首を巻いて捻りながら打っちゃった大寿山に軍配。物言いなし。ようやく5勝目。13敗を喫した嗣子鵬はまた十両から出直し。

 

さあ、ここで首位の一角・朝潮登場、勝てば13勝2敗で決定戦進出。負ければ即V逸。朝潮、出足駆っていきなり左差し成功。右で引っ張り込む癖がある若の富士、小手に振って回り込みたいが、朝潮の直線的な攻めに果たせず。朝潮は左を突きつけて一気の寄り。新鋭を圧倒して自己新の13勝目。3場所ぶりの決定戦進出だ。

 

先制は栃赤城。突き放していったが、麒麟児の突っ張りに遭い、組んでも突き押しの麒麟児から右四つに。最後は栃赤城の小手投げが決まった。

 

闘竜右を固めて当たったが、左前ミツから左差し、右も浅く覗かせた若島津。素早く前に出て左膝で切り返し気味に闘竜を寄り倒した。

 

三役揃い踏み

後ろを見ながら丁寧に合わせる出羽の花。鋭く当たりつつ右前ミツの琴風、左、右と差すと、得意のがぶり寄りで北天佑を圧倒。まわしを取らずともがぶれる琴風強し。

 

左前ミツ狙いの出羽の花。阻まれると引っ込めたが、その拍子に隆の里バッタリ。あっけない相撲で両者11勝4敗。

 

結びの一番。朝潮との決定戦をかけて、若・千代による唯一の楽日相星対決。低く突っ込んだ千代の富士、願ってもない両差し。素早く引き付けて吊り寄り。若乃花首捻りから左巻き替えて右上手も引いたが、出足と引きつけによって浮き上がってしまっては、懐の深さも粘り腰も発揮できない。下がりながら吊り身で残すも、すでに足は俵の外。2敗を守って決定戦進出は千代の富士。

 

決定戦

これで今場所は全階級で実施されることになるが、史上初めてのことだった。

右肩で当たった千代の富士。ぶちかました朝潮が二の矢の攻めを繰り出すより早く、左に開いて叩き込み。ゴロリと転がった朝潮。何ともあっけない幕切れ。3場所前の雪辱ならず。屈指の迷言、「ケチ」発言が飛び出した。