昭和相撲史発掘 本場所編

昭和53年夏場所

概要

トピックス

北の湖独走時代か

若三杉の綱取り

 

優勝

北の湖

横綱

14勝1敗

決定戦

 

記録

2場所連続同一カード決定戦

 

歴史的観点

若乃花が横綱昇進

北の湖初の三連覇、二強時代抜け出す

 

前場所からの流れ

 昭和51、52年と輪湖の寡占状態が続いたが、53年に入ると前年年間80勝をマークした北の湖が連覇。対する輪島は10勝、途中休場と陰りが見え出した。代わって大関2年目に入った若三杉が初場所13勝で次点。春場所は北の湖を破って決定戦に持ち込み、敗れたものの連続13勝。優勝経験もあったが、直前の優勝なしでは推挙は難しく、改めて賜盃と綱を取りにいく場所になった。

 2強の争いに加わるのは、復活を期す輪島か。3大関は、旭國が連続10勝だが、三重ノ海8,10勝、貴乃花は休場明け8勝で辛うじてカド番脱出と期待薄。

 三役、幕内上位の突き上げは弱く、荒勢が8場所連続で三役在位中だが二桁は1度だけ。新関脇玉ノ富士、新小結蔵間が勝ち越して関脇に座り、三役定着が期待される。平幕で自己最高位を更新したのは、西2枚目の尾形(のち天ノ山)、東5枚目千代の富士、そして新入幕大觥、谷嵐(山口、メジャーリーガーの父)、黒瀬川の3人だけ。

 その中で楽しみなのは、新入幕で敢闘賞を得て9枚上昇の尾形。190センチで目方もあるホープは、幕下付け出しからややもたつくも新十両から急上昇中。9勝1敗から役力士に当てられ3連敗したが、貴乃花を破った。新入幕で大関を倒したのは、鷲羽山、大錦に続いて戦後3人目。その後は平成期に栃乃花と逸ノ城が記録しているのみの快記録だ。上位に通用するか。

 

この場所の成果

 予想通り北若二強がデッドヒート。これを輪島、三重ノ海が追う。11日目に三重ノ海が若三杉に土をつけるが北の湖には敵わず。若三杉に敗れた輪島も脱落。またもや一騎打ちとなり、先場所同様本割は若三杉、決定戦は北の湖が制して決着した。

 北の湖は初の3連覇で輪湖時代を抜け出し一強時代を築く勢い。これに食い下がる若三杉は3場所連続13勝以上。優勝こそ届かないが新たな対抗馬にのし上がり、二代目横綱若乃花誕生となる。9勝に終わった輪島は二強の一角からあっという間に転落、30歳にして正念場が訪れた。

 三役では関脇玉ノ富士が9勝したが、新関脇蔵間は大敗。元大関魁傑も8場所連続三役の荒勢も陥落となった。空いた枠に滑り込んだのは、期待の尾形ではなく、三賞を受賞した琴風、そして千代の富士だった。

 

三 賞

殊勲 琴 風②  1横綱2大関破って12勝

敢闘 千代の富士 初 貴から大関戦初勝利。5枚目9勝で新三役へ

技能 該当者なし

 

 上位の活躍力士は少なく、玉ノ富士は最後に連敗して二桁届かず、金星の大潮、高見山も負け越した。ピカイチだったのは琴風で、9日目に勝ち越すと以後連日の上位戦も互角以上に取って12番。W受賞でも良かったくらいだ。11勝の麒麟児は10枚目なら当然と見送られ、成績は微妙ながら新進気鋭の千代の富士が敢闘賞に。貴乃花戦はじめ、大技に頼らず正攻法が目立った。当時の選考委員の眼力は高い。

序盤戦

 北の湖若三杉が全勝。両者とも得意の左四つに組んでの盤石の相撲を展開。1敗で、黒星スタートから立て直した輪島と2大関。貴乃花は2敗と出遅れ。先場所新入幕に敗れた屈辱を晴らせず尾形の突き押しに完敗。玉ノ富士にもはたき落とされた。

 

大潮  序盤、唯一の金星を奪ったのは先場所10勝で前頭筆頭の大潮。前捌き良く低く食いつくと、得意の一気の寄り。堪えた輪島、反対に浅い上手引き付けて逆襲に転じる。大潮下がりながら小手投げも出足に負けて先に飛んだように見えたが、輪島の右足が俵の外に踏み出していた。休場明けの初日、押し込まれて慌てたか。呼び止められて勝ち名乗りに気づいた大潮。このところ力をつけている30歳が、嬉しい初金星。

 

増位山  足腰の良い貴乃花には内掛け、二枚掛けと仕掛けるも通じなかったが、合口の良い三重ノ海を叩き込みで沈めた。蔵間を得意の右一枚まわしからの上手投げで破り白星先行。

 

尾形  初日先場所に続いて貴乃花を破るが、その後は黒星を並べた。高見山との巨漢対決は上手を引き付けて寄るも重量負け。反撃を受けて膝から崩れて寄り倒され、ひやっとした。

中盤戦

 北の湖、若三杉が無傷のまま並走。戦前の予想通りの展開で進む。

 北の湖は初日を除き全て黒星先行か5分の星の相手との取り組みが続き、危なげなし。若三杉も寄り、投げと冴え渡る。両横綱にピッタリくっついて2日目から8連勝していたのが、平幕琴風。組んでも離れても出足鋭く、勢いに乗って10日目若三杉に挑戦したが、下手投げで退けられ7戦未勝利。晩年はその出足で苦しめるが、当時は力の差があった。

 

 輪島は6日目高見山に敗れて2敗。この時点で対戦成績20-19と互角。輪島からの金星は7個目となったが、これが最後。史上最多を記録した金星も、この年もう一つ獲得して打ち止めとなった。

 

 三重ノ海はその輪島に中日早々に当てられ2敗目を喫したが粘っている。貴乃花は魁傑の内掛けを食って3勝3敗となるも、4連勝で勝ち越し王手。旭國は貴乃花と三重ノ海に敗れるなど横綱戦を前に4敗となった。

 

 三役では、2大関を破った玉ノ富士全部引き技ながら6勝。魁傑は五分だが、蔵間荒勢は早くも負け越した。平幕は琴風が2敗となり、新入幕黒瀬川も千代の富士の上手投げに切って捨てられ、10日目給金とはならず。優勝争いはほぼ一騎討ちの展開だ。

 

 若獅子は10日目けたぐりを決めてようやく初日。しかしこの場所この1勝しか挙げられず、翌場所から3年も十両に低迷する。

十一日目

並走北若、大関戦

 突いて出た三杉磯だが、栃赤城に右下手で食いつかれて深い左上手。投げを狙うも低く構えた相手を動かせず。栃赤城が機を見て攻めに出て、寄り切った。

 突っ張った若獅子、しかし琴ヶ嶽に右深く差されると一気に寄り切られた。

 立ち合い、左前みつで頭をつけて走る北瀬海。右で渡し込むようにして出羽の花に残す暇を与えなかった。

 ぶちかまして突いた玉輝山、しかし麒麟児が突っ張りで反撃すると、一方的な展開に。土俵下へ吹っ飛ばされて客席奥まで突っ込んだ。

 大觥、左に跳び違ってけたぐり。見事決まって黒姫山横転。両者五分の星。

 金城、突っ張る谷嵐を右差しで捕まえようとし、嫌うところを押し出し。

 舛田山は当たると見せて立ち合い左からの突き落とし。青葉山バッタリ。

 左差しの黒瀬川、右上手を下がりつつ前に出ると、豊山たまらず腰から落ちた。実力者を一方的に下した新入幕、なかなかの寄りである。

 魁輝突っ張って四つ相撲の隆の里を近づけず。隆の里半身で右差し、魁輝は上手を取るが、胸を合わされがっぷり。こうなると隆の里が力を発揮、相手の上手を切り、引き付けて寄り、外掛けで倒した。

 青葉城に左四つ右前ミツで食いついた播竜山、押し込んでからの出し投げを決めた。

 増位山、巨漢双津竜に右四つ左上手で胸を合わされるが、引きつけをこらえると相手の吊り身に合わせて十八番の右内掛け。見事決まった。

 頭でいって左からいなした大潮、しかし反応した富士櫻が追撃して一方的に押し出した。

 腰を落としてぶつかった荒勢、素早く左前ミツ。右を入れて寄り、尾形が下手投げで逃れようとするのを、左から上手投げ。

 左前ミツに食いついた千代の富士、頭をつけて寄っておいて、外掛け、吊りと攻め、魁傑の腰が浮いたところを右下手投げ。完全に腰に乗せて元大関を転がした。

 突いて叩いた玉ノ富士、右下手から入ると巻き替え構わず前へ前へ。先手で動いて蔵間に残す暇を与えず寄り切った。

 旭國が高見山の突きを潜ってかわして左前ミツ。低く食いつき立て直す間を与えず寄り切った。

 若乃花、ケッパレの横断幕広げた大応援団を背に大関戦。ところが立ち合い三重ノ海に両差しを許すと上手も取れず。肘を張って絶好の形を作った三重ノ海、両下手引き付けて高々と吊り出した。ついに全勝の一角が崩れた。

 2敗対決。平幕琴風が輪島に挑む。珍しく右から差しにいく輪島だったが、琴風が徹底して突き放し。応戦するも挑戦者の馬力炸裂、ついに捕まえきれずに土俵の外へ飛び出した。横綱、3敗に後退した。

 結びの一番、両手突きから突っ張って出た北の湖。貴乃花が右に回って右上手を取るが、力づくで下手からの投げで引き戻すと、大関たまらず腰から落ちた。一瞬の期待すら無慈悲に摘み取ってしまう隙のない横綱、ここで単独首位に躍り出た。

 

全勝 北の湖

1敗 若乃花

2敗 三重ノ海、琴風

十二日目

全勝横綱に挑むは2敗三重海

 ザンバラ髪の幕下長岡、立ってすぐ左四つ右上手。下手を取らずとも腕の返しで相手が浮き上がり、吊り出しの勝ち。デビュー13連勝、2場所連続優勝での十両昇進に王手。

 左四つは魁輝の形。左右から黒瀬川を揺さぶって、最後は左からの捻りも効いた上手投げ。

 両前ミツ狙いの出羽の花、吊り寄りで攻め立てたが、大觥捨て身の下手投げで縺れ、逆転負け。

 麒麟児、突っ張りで一方的に谷嵐を弾き出して勝ち越し。

まだ1勝の若獅子、十両大登に四つに組まれて為す術もなし。長身のこの十両力士、のち大飛の大山親方である。

 右おっつけで出た大錦、当たりは良かったが左入らず、二本差しの北瀬海の反撃に寄り切られた。

 ぶちかましから押した黒姫山、最後は右を差して腰を落とし、青葉山を寄り切った。

 体で当たって突き上げた舛田山、玉輝山に食いつかれても構わず勢いで右差しで出たが、土俵際の上手投げに逆転された。

 播竜山、当たると見せて左変化で蹴手繰り。意外な技は空振りだったようだが、意表つかれた豊山沈んで叩き込みの勝ち。

 時間前に立って栃赤城が猛突っ張り。双津竜右差して組止めたが、出てきたところを鋭い下手投げが待っていた。巨漢横転。

 両手突きから右差しを探っていた金城だが、にわかに押しに転じて青葉城を押し出した。

 手を出して牽制の増位山、大潮が前がかりに出てきたところを回り込んで叩き込み。間合いの魔術師。筆頭の大潮は負け越し。

 右かちあげ不発の尾形、がら空きの懐に飛び込んだ富士櫻が一気に走って押し出した。

 押し合いから両前まわしの隆ノ里、頭をつけられた魁傑は嫌って差し手を抜き外からおっつけるが、内掛けで脅かして寄った隆ノ里、今度は外から足を掛けて倒した。横綱昇進後も外掛けは多用するが、内からも繰り出せる器用な足捌きを見せた。

 胸を出して差しにいった玉ノ富士、高見山の馬力をまともに受ける形の悪手と思った瞬間、差し手を抜いて突き落とし。

 突き押しで優勢の蔵間、いなして泳がせ送り出した。小結荒勢は負け越し。8場所連続保った三役からついに陥落か。

 

 右固めて左で起こしにいった琴風、しかし大関旭國、左へ回って左前ミツから下手。右もいい位置を引き付け胸に顔を押し当てて寄り。完全に上体の起きた相手を外掛けで仰天させた。大関の巧さが新鋭の勢いを止めた。平幕で唯一食い下がった琴風、3敗と優勝争いから脱落。

 

 連敗はしたくない若三杉。対するは元気いっぱい勝ち越しのかかる前頭5枚目千代の富士。低く突っ込んで左前ミツ狙い。胸で当たって弾き返し、千代前ミツは取ったが若三杉十分の左四つ。深い一枚廻しながら右上手を引かれると、前ミツ離して左ハズにあてがう。上手切れないとみて、下手引いて引き付けて出たが、これは懐の深い若三杉の思うつぼ。高々と持ち上げて体を入れ替え、土俵下へ吊り落とした。

 

 優勝争いに残れるか、2敗三重ノ海が9連敗中の天敵に挑む。立ち合いで上回り、左四つ右上手。北の湖守勢に回り下手投げで振って凌ぐが、決して半身にはならず右足が前。出足が止まってきたところで右上手。例によりユルフンで一枚廻しが伸びるが、構わず引き付け、そのまま寄り切ってしまった。圧巻のブルドーザーぶり。三重ノ海も3敗となり、優勝争いはやはり2人の争いに。

 

 ほぼ消化試合と化してしまったかつての黄金カード、半年ぶりの貴輪戦。胸で当たりあったが、貴乃花の両差し狙いが奏功。両下手を引き付けて吊り寄り、残すところ両手で突き放してとどめ。序盤は心配されたが、12日目で勝ち越しを決めた。輪島は4敗。

 

全勝 北の湖

1敗 若三杉

3敗 三重ノ海、琴風

十三日目

若、いよいよ横綱戦 

 勝ち越しかかる両者。十両筆頭大錦の左差し速攻に、魁輝あっさり土俵を割った。幕内復帰有力に。

 谷嵐、頭で当たるも、大觥にいなされて踏み込んだ足が流れ、送り引き落としのような形で尻もち。決まり手突き倒しで、大觥新入幕勝ち越し。

 栃赤城右手を突きつつ、右下手。半身気味から下手投げ。前に出てきた十両・琴乃富士を俵伝いに回り込んでかわし、3場所ぶりの勝ち越し。対する琴乃富士は勝ち越しお預け。幕内12場所経験しているが、この年は初場所筆頭で7−6から負け越すと、春場所から4場所連続勝ち越しながら西3枚目から西筆頭までしか上がれず、九州では7番止まりと不運な一年になった。この一番勝っていれば。

 十両影虎懸命に突き押しで攻め、堪える若獅子を投げで後ろ向かせて送り出した。若獅子いまだ1勝。九重部屋ながら珍しいしこ名の十両力士、十両3場所目で東筆頭、7敗してから連勝。このまま粘り切って見事ワンチャンスで新入幕を果たす。絶不調の相手と当てられた幸運を生かした。琴乃富士とは対照的。

 頭で当たって突き放した三杉磯。、すぐに左四つとなって右上手から投げで脅かし、北瀬海が下手投げで反撃するも、上手投げに返した。

 麒麟児が高速回転の突っ張りで、一方的に黒姫山を押し倒した。どアップのカメラワークも狙いすましている。

 右深く差して返した玉輝山、青葉山に上手を許さず寄り切った。

 突いた黒瀬川。下から押し上げる播竜山。左四つになってから少し突っ張って黒瀬川。再び左四つに組むと、引き付けて半身になった相手を寄り切った。新入幕、9勝目。播竜負け越し。

 上手早かった豊山。遅れて出羽の花も上手を引いたが、吊り寄りで先手必勝。

 右へ動いて素首落とし。尾形が残すところを更に叩き込んだ金城、白星先行。

 右固めた双津龍。富士櫻も左固めて当たり、突き押し。応戦しつつも組み止め切れない双津龍、下がって土俵際突き落としたが、既に土俵の外だった。

 頭で当たって得意の左が深く入った大潮、そのまま一気に煽って出て、青葉城を圧倒。

 右へ飛んでの突き落としは不発だったが、右下手引いた増位山、機を見て下手捻りを決めた。内無双にも見えたが見えたが手は掛かっていなかったか。術中にはまった荒勢は二桁黒星。

 舛田山の突き押しをうまくいなした魁傑、泳ぐところをすかさず押し出した。

 突いて出た高見山。蔵間も長いリーチで突き返すも、馬力で圧倒されてこちらも10敗目。

 左前ミツの早かった隆の里だが、玉ノ富士が左おっつけて圧力をかけ、切れた廻しを探る相手を突き落とし。9勝目。

 

 有名な一番。千代の富士貴乃花に初挑戦。低く当たって左前ミツを掴み、頭をつける。右はおっつけられてなかなか入らなかったが、体を左に傾けてねじ込むと、大関が極めようとするのを堪えて抱きつくように深い両廻し引きつけ寄り切った。憧れの人を破って勝ち越し。「千代の富士、今日は緻密な相撲です」と杉山アナに褒められた。普段のサーカスぶりを匂わされているが、この場所は割と堅実な取り口を続けている。

 3敗同士。右おっつけ左のどわから、左四つ右上手取ってがぶった琴風が、大関三重ノ海に馬力勝ち。

 

 1敗若三杉は、4敗と脱落している横綱輪島に挑む。相四つの両者、立ち合いすぐに若右上手。輪島左下手半身。これは予想通りの展開。土俵中央動きが止まる。若乃花、一度寄り立てて残されるが、頭をつけた。そして再びの寄り。ついに腰の伸びた輪島を寄り切った。

 

 結びの一番。旭国が左前ミツ。右も上手前ミツを引いてここぞと出たが、重い北の湖も両廻し引いて堪え切った。息つく間も与えず反撃に出ると、体格差は歴然。盤石の寄り切り。13連勝で単独トップを守った。

 

全勝 北の湖

1敗 若三杉

14日目両者の直接対決があるため、3敗琴風は可能性が消えた。先場所と同じく北若の一騎打ちに。

十四日目

綱取り若三杉大一番 全勝北の湖に挑む

 

幕下6枚目・6戦全勝長岡と、十両最下位で既に7敗の吉の谷の入替戦。デビュー以来無傷の新星に対し、ベテランがやや左に動いて屈み、右足を取って高く持ち上げると一気に土俵の外へ運んだ。当時は角界の江川くん、のち大関朝潮、プロ初黒星で連続優勝は逃して自力昇進はのがしたが、最速タイの所要2場所で新十両を果たした。

 

入替戦。おっつけてから右差しの出羽の花、前に出つつ、豪快にすくい投げ。十両大豪を圧倒した。幕尻が粘って7勝7敗。十両5枚目は二桁に乗せられず。

 

十両筆頭大錦、左を前に差し身を狙いつつの押し相撲で谷嵐に圧力勝ち。西最下位の12枚目谷嵐を負け越しに追いやりつつ9勝目で再入幕を確実に。

 

突いて、引いて、右差し狙いの十両大竜川。若獅子おっつけて防いでいたが、叩きから右上手に切り替えての寄りに屈した。昭和45年に早くも十両落ちしてからは十両を主戦場としてきたベテラン、十両上位で推移していたが、この場所はすでに負け越し。1年後に土俵を去る。

 

体当たりの十両琴乃富士に対し、低く当たって両差しの北瀬海だが、左からの大きな上手投げを食った。残留が苦しくなる10敗目。2枚目琴乃富士は勝ち越した。

 

低く当たって右下手の金城。青葉山に上手を引かれると半身に構えたが、下手で振るも効果なく、寄り切られた。

 

左に交わした千代の富士、上手は取れなかったが、向き直って突っ張る舛田山に対して下がらず、左前ミツ掴んで寄り切った。

 

張り差しの魁輝、突っ張った豊山。魁輝も突っ張り返しながら左差しを狙い、嫌われると右から入った。突き放そうとするも果たせず、右をコジ入れた豊山だったが、魁輝が右四つのまま前に出て寄り切った。

 

青葉城、立ち合い右へ開いて叩き込むと、玉輝山バッタリ。絶不調相手に二桁に乗せられなかった。

 

播竜山左肩から当たったが、高見山が左へ動いて叩き。向き直るところを押し出した。注文相撲で意表をついた。

 

おっつけから右差し狙う増位山だが、黒瀬川が差し勝って左四つ。前に出たが、差し手を抜いてひらりとかわした増位山、追撃してくるのをさらに回り込んで送り出し。好調の新入幕を、熟練の技で捌いた。

 

立ち合い突いてから左を深々と差した尾形。そのまま出て栃赤城を圧倒。

 

両者激しいぶちかまし。黒姫山左が返らず、大潮の左差し速攻を許すも、素早く下がって、引き落とし。

 

負け越しているとはいえ前頭筆頭の意地。富士櫻が両手突きから猛烈に突っ張っておいて叩き込み。新入幕大觥に貫禄勝ち。

 

当たって二本入りかけた麒麟児だが、すぐ思い直して突っ張り。苦手魁傑を圧倒し二桁勝利。3場所ぶりに三役復帰の魁傑は負け越した。

 

右四つ。左上手から振った双津竜だが、荒勢が重心落として腰をぶつけるように詰め、巨漢を吊り上げて寄り切った。

 

蔵間の突っ張りをあてがって右、左と前ミツにかかった隆ノ里。右下手を深く掴み直し、捻り気味に左上手投げを決めた。7勝7敗と持ち堪えた。

 

琴風の突進を立ち合いで叩いた貴乃花。思いの外頭を下げなかった新鋭の出足を呼び込んで大失敗。「常に真っ向勝負」にも例外はある。イメージに反して案外飛んでる、とは誰にも言わせないのが花田ファミリー。琴風11勝。

ケレン味なら任せなさいと三重ノ海、玉ノ富士の手を払ってから、相手に組ませずに突き出した。二桁をかけた大関関脇戦を制した。

 

さあ、今場所白眉の大一番。両雄の1差対決は、随分角度をつけて左肩から当たった北の湖が、勢い良く右上手つかもうとするが、掴み切れずに切られた。角度をつけた分下手は深い。若三杉は右上手取るも深め。北の湖右前腕で再三差し手を絞って攻めようとするが、若堪える。さらにおっつけて上手狙う横綱だが、仕掛けるほど若三杉の形が良くなり、北の湖の下手投げに乗じていよいよ前に。さらに下手から振られて上体が引っ張られたが、強靭な足腰は土俵に根を生やしていた。右上手投げで土俵下へ放り出した。両者1敗で並び千秋楽へ。これで対戦成績も五分に。王者にも強い若三杉、横綱を手中にしたと言っていいだろう。ただ、北の湖最後の抵抗を残した際に、硬く締めた廻しが若三杉の上体に食い込んで、甚大なストレスが。

 

突っ張っては左を覗かせる輪島旭國が嫌って右差し果たすが突き放され、いなして右上手を取ったものの、捕まえれば横綱。うるさい相手を少し吊って土俵の外へ。お得意様破って3連敗でストップ。

 

1敗 北の湖、若三杉

花のニッパチ同士のデットヒートの末、相星で楽日へ。輪島、旭國が相手。水を開けられた年長の横綱、大関、一矢報いるか。

千秋楽

相星北若、三連覇か綱取りか

 

立合い右差しに成功した出羽の花、左から挟みつけて寄り、下手投げを放つと、琴乃富士は宙を舞った。幕尻で勝ち越し。十両2枚目琴乃富士は8勝止まりで入替のチャンスを逸した。

 

左肩で当たった黄緑の締め込みは、十両大豪。谷嵐が押して出るのをかわして叩き込み、10勝目。谷嵐は陥落必至となったが、大豪も上がれず。

 

麒麟児が回転の速い突っ張りだけで一直線。大觥を圧倒し11勝。

 

黒姫山に当たり負けせず右下手の栃赤城だが、左上手からの出投げにバッタリ。

 

突き合いから右下手半身に構えた金城。下手から振って左おっつけで攻め、寄り切った。

 

少し遅れて立った左へ動いて上手狙いは外れたが、まともに右四つに組む千代の富士に対して上手を取り直すと、投げで体を入れ替えて吊り出し。両者9勝6敗。二桁には届かなかった千代の富士だが、大関初撃破などの活躍が認められて初の三賞・敢闘賞が与えられた。

 

頭で当たって右四つに組んだ黒瀬川。肩で当たった隆の里は遅れて左上手で胸を合わせ、引きつけ勝って寄り切り。4枚目で勝ち越し。

 

左へ飛び違って突き落とした舛田山。高見山予期していたか向き直り、追撃の突き手を払われて前のめりになったが、なぜか高見山の方がバランスを崩して落ちた。おそらく投げたつもりはないが下手投げで勝った舛田、戸惑った表情で勝ち越しの勝ち名乗り。

 

先に左上手を引いた双津龍、投げで崩して青葉城を寄り切った。

 

突っ張りから叩いた尾形、北瀬海につけ込まれてあえなく土俵を割った。期待の新鋭の幕内2場所目は、大物食いどころか最後は十両転落必至の小兵にも惨敗で、3勝12敗に終わった。

 

富士櫻、増位山をよく見ながら一方的に突き押しで圧倒。

呼吸合わずも待った不成立。一気に攻めた大潮が鋭い出足を発揮して寄り倒しの勝ち。覇気失った若獅子、1勝14敗。

 

張って出た荒勢、突っ張り返す豊山の反撃を許さず寄り立てて快勝。不成績ながら気魄がこもっていた。

 

魁傑に突き放されたが、左で浅い上手引いた青葉山。魁傑が左巻き替え、上手も切って形成逆転攻め立てたが、土俵際青葉山小手に振って入れ替わり、逆転勝ちで9勝目。

 

思い切って左へ変わった播竜山、突き落とし一閃、蔵間土俵に這った。

 

玉ノ富士が捕まえようと張り差しに出るが、琴風の馬力止められず。殊勲賞確定の21歳は、左四つ速攻、踏ん張る間を与えず寄り切って12勝目。

 

大関対決、三重ノ海が両手で突いてから左ハズ右おっつけ、貴乃花に何もさせずに寄り切った。

 

こちらも大関対決。首位に並んだ若三杉旭國に動き回られたが、左差しを抱えるかたちながら動きを止めた。上手を取れないなか、一同突き放してから今度は右四つ左上手。相手の頭が起きたが攻められず膠着。先に動いたのは旭國、左で下手を切りにいったが、その隙に巻き替えた若三杉。両上手前ミツで挟みつけようとする旭國だが、二本入った若三杉が吊り上げて勝負あり。

 

4年間二横綱として並立し、千秋楽結びで固定された輪湖戦。それも、若三杉が昇進すれば流動的になる。例によって左四つ。輪島が右おっつけ、下手投げと崩しにかかっても、もはや全く動じない北の湖。根負けして上手を取った輪島。すると北の湖が胸を合わせて盤石の寄り。逃れられず、輪島土俵を割った。14勝と9勝、星の上でも直接対決でも完全にライバルを上回った北の湖。新たなライバルに浮上した同学年の若三杉を、決定戦で再び迎え撃つ。

 

<決定戦>

一度待ったのあと、相四つの両者、左を差し合うが、上手は北の湖。主導権を握ると握ると、慌てない。ようやく一枚廻しにかかった若三杉、辛うじて凌いでいたが、ついに力尽きて北の湖の軍門に降った。泰然自若、王者の貫禄。初の3連覇達成。

 

<昇進問題決着>

2場所連続で本割は勝ったが決定戦で涙を飲んだ若三杉。直近の優勝はないものの、初場所から13、13、14と好成績を続ける安定感が決め手となり、横綱昇進が決まった。そして改名。かつて実弟貴乃花が襲名を期待された「二代目横綱若乃花」は、意外な形で誕生した。